ジャンク JUNK

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ブロードウェイ
ジャンク JUNK
ジャンク JUNK

2012年、 『ディスグレイスト』)でピューリッツァー賞を受賞した アヤド・アフタルによる新作戯曲。主役のロバート・マーキンのモデルになったのは、1980年代に「ジャンクボンドの帝王」と呼ばれたマイケル・ロバート・メルキン。彼を中心にアメリカの市場がどうやってリーマンショックに至ったかをドキュドラマ タッチで描いている。

あらすじ&コメント

信用格付けが低く、元本割れリスクの高い分、当たれば非常に高いリターンが期待できるジャンク債。カリフォルニア出身のロバート・マーキンは「ジャンクキング」と呼ばれ、寝る間も惜しんで、ジャンク債を使って巨額の富を集めていた。彼にとってジャンク債を扱うことは、今まで市場を独占していた実際に存在する資本によって利益を挙げてきた、古きアメリカのマネーとの戦争であった。マーキンは、融資を証券化し、それを分散してリスクを減らすという方法をとることで、ジャンク債を担保に、経営の思わしくない倒産リスクのある社債を引き受けて会社を合併買収するという戦略で、次々に会社を落としていった。80年代に大きく取引の始まったこのジャンク債は、まさにウォール・ストリートを席巻する勢いであった。マーキンが今回狙った買収相手は、エバーソン鉄鋼会社。複合企業で製薬会社や通運などの会社が集まって一つの企業になっていたが、代々続いた鉄鋼工場は社長のトーマス・エバーソンの誇りだった。しかし鉄鋼は寂れていくばかりで、マーキンに買収されれば、工場は会社資産の改善のため閉鎖され、従業員が仕事を失うのは火を見るよりも明らかだった。マーキンの買収を避けるため、トーマスは自分の会社が株主によってコントロールされることをなんとしてでも避けようと、昔の資本主義の中で生きてきた投資家レオ・トレスラーに頼るが、結局、資金力にものを言わせたマーキンに買い取られてしまう。会社を経営することに命をかけてきたトーマス・エバーソンは、銃で自殺。しかし、マーキンにも連邦政府の調査の手が伸びてきていた。エバーソン買収のための巨額な資金を調達するために、インサイダー取引を行いながら、巧妙に株価を動かして利益を得ていたからだ。そこでマーキンは妻の反対を押し切り、司法取引で有罪を認め収監されることを選択する。裁判で争って資産を全額失うより、司法取引をすることで手元に資金を残し、次なる市場操作を夢見たのである。そして時代は、マーキンの予測した通りとなった。ジャンク債は、クレジット・デリバティブと名を変え、ウォール・ストリートと世界経済を動かすことに時代に向かっていく。

アヤド・アフタルはあえて誰か一人の登場人物に焦点を当てず、また誰かの立場にも立たず、アメリカの経済のシステムがどう変化していったのかを淡々とドライに追っている。芝居は普通、あるテーマにある方向からスポットを当てて、そのアングルから深く掘り下げることで、観客の共感を呼んで作家の想いを伝える手法が多い。しかしこの作品は、多くの立場の違う人々を追って、複雑でわかりにくく説明しにくい現代の資本主義経済のシステムの変化を示そうとしている。その為、出場人物が多すぎて一人一人の性格が薄くしか表現できないままで終わるので面白くないという評論も少なくなかった。しかし、ある歴史を追ったドキュドラマとして観ると、非常によくできており、この難しい骨の折れる仕事に挑戦したことに拍手を送りたい。 アフタルは人物やシステムを批判しようとはしていない。現実と当時の人々の選択を、じっと見つめている。そして、この時代の流れに一緒に乗って流れないために、私たち一人一人が、何が出来るかを問いかけている。

鏡や蛍光灯の冷たい光を利用したミニマリストでインダストリアル調な舞台セットが、血の通う人間やその人間によって作られたお金でもない、実際には存在しないレバレッジやローンの世界をうまく表現している。

11/18/17

メディア評

NY Times: 6
Wall Street Jornals : 7
Variety : 7

Lincoln Center
Vivian Beaumont Theater
150 W 65th St.

上演時間:2時間20分(10分の休憩) 

舞台セット ★★★★★
衣装 ★★★★☆
照明 ★★★★★
総合 ★★★★★

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