あらすじ&コメント
劇場に入る際、チケットもぎりの係員が観客の一人一人に「会話劇となっていますので、必要でしたら補聴器をレンタルしてください」と声をかける奇妙な光景が見られる。作・演出のリチャード・ネルソンは、普段の出来事を観客が偶然見ているかのようなスタイルを重んじており、俳優たちに普段の声で話す様に促すそうだ。客席内は、演技が行われる空間を3方向から観客が囲むように 見おろす形式で、正に鍵穴から中で起こっている普段の生活を覗いている様な感じだ。そして、彼らの声が聞こえる様に、この舞台の頭上2メートルくらいの位置を覆うように吊るされているマイクや、更に観客の上にもかなりの数のスピーカーがあり、最初はミュージカル作品だっけ・・?と思う程。 出演者が10人に対し、ステージ上に吊るされたマイクの数が15。 しかし、普段の生活と同じ様に、例えば数人の会話が重なって同時に話されたりもするので、聴き取るのにかなりの集中力を要する。しかし、「覗き見」を人はどれほど長く続けられるのだろうか。よほどな事が起こり続けないと、その集中力をキープするのは難しい。
ジョン・マガロが演じるジョセフ・パップに、ニューヨークに大きく貢献した公共劇場を立ち上げた人物のカリスマ性を感じなかったのは、ミスキャストなのか、この演出の意図だったからなのか。パップが『十二夜』の主役に自分の妻を選んだ為、他の女優を望んでいた演出家のスチューアート・ボーガンと仲が悪くなるのだが、「もともと自分の奥さんを起用したくて、自分で劇場をたちあげたかった」などと話したり、パップがセントラル・パーク側との交渉に悩まさられたりなど、地味なエピソードが描かれている。 ネルソンはもしかすると、パップや彼と一緒に努力したチームの人達は、普通の人々で、 実は私やあなたと似たような毎日の事柄に悩みながら、小さいステップを一つ一つ進んでいったのだ、と伝えたかったのだろうか。
11/9/2017
Public Theater
Anspacher Theater
425 Lafayette St
上演時間:1時間50分(休憩なし)
舞台セット ★★★★☆
衣装 ★★★★☆
照明 ★★★★☆
総合 ★★★☆☆