2023年 トニー賞に向けて

2023年 トニー賞に向けて

5月2日、トニー賞各賞のノミネートが発表された。だが他方、その日の朝から始まっていたのが放送作家達のストライキだった。テレビ、ラジオ、映画、ネットなどのすべての作家達が参加している。米国の組合(ユニオン)は日本と違い、職種別に組織されているのがほとんどなので、この人たちがストライキを始めたことで授賞式も一時延期となった。放送する四大ネットワークに流す映像を組み立てるCBSのライターも、ユニオン会員だからだ。

授賞式では放送中ミュージカルのノミネート作品らのハイライト・シーンが生で披露される。これは全米にいるブロードウェイ・ファンにとっては堪らないし、プロデューサー等にとってもまたと無い宣伝となる。もちろんそこで優勝を勝ちとれれば万々歳だ。したがってブロードウェイのプロデューサー達にとっては、放送されないトニー賞の授賞式など考えられないので、これには焦ったと思う。

授賞式の目玉は、最後に勝者が発表される新作ミュージカル部門だが、今年ノミネートされたのは、次の5作品だ。

  • &ジュリエット “& Juliet”
  • キンバリー・アキンボ “Kimberly Akimbo”
  • ニューヨーク・ニューヨーク “New York, New York
  • シャックト “Shucked”
  • お熱いのがお好き “Some Like It Hot”

プロデューサーのトニー賞への期待の話をしたのでついでに言うと、上記作品中、今のところ『& Juliet』のみが黒字で、他は軒並み赤字という大変な状況だ。『&Juliet』は、マックス・マーティンによるポップなヒット曲が結集されているだけあって、切符の売れ行きがいいらしい。だが他の作品は俳優数が多くて人件費がかさんでいる上に、舞台装置も手が込んでいて簡単には回収できそうもない。多くの劇評家が密かに推してる、感動的なストーリーの『Kimberly Akimbo』は、比較的キャストの数も少なくて、舞台も地味なので赤字幅は小さいようだ。それしても米国だけでなく、世界中で話題となっているこれらの作品が、簡単には利益が出せないブロードウェイ界の厳しさに、今更ながら身につまされる。

話をストライキに戻すが、嬉しいことにトニー賞のプロダクションとユニオン側がなんらかの同意に至ったようだ。5月15日には「授賞式の劇場前では反対デモは行わない」と公表され、当初の予定通り6月11日にCBS(米国)で放送されることになった。ストライキは続くが、授賞式は脚本無しで行う様だ。去年に続け司会を担うアリアナ・デボーズの開幕の一声がどうなるのかが、興味深い。

さて、もう一つのトニー賞の目玉であるミュージカル主演男優賞には6人がノミネート*されている。この内クリスチャン・ボール、 ジョシュ・グローバン、ベン・プラットの3人は、2017年のトニー賞でも一緒に候補に上がっていた。結果は『ディア・エヴァン・ハンセン』で主演した若干23歳のベン・プラットが受賞として話題となったが、今年はどうなるだろうか。同作品で当時ベンのアンダースタディ(代役)をしていたコルトン・ライアンが、今年は彼と肩を並べてノミネートされていることも気に掛けておきたい。

今年の授賞式はユナイテッド・パラスというマンハッタンで4番目に大きい劇場で行われる。しかし座席数は約3400席と、今まで殆どのトニー賞が催されてきたラジオ・シティーの約6000席よりは小さくなった。この劇場は、セントラル・パークの北端から続くハーレム地区よりも更に北のワシントン・ハイツとよばれている場所にある。ちなみに大人気『ハミルトン』を書いたリン=マニュエル・ミランダが最初に名声を博したブロードウェイのミュージカル『イン・ザ・ハイツ (In The Heights)』は、このワシントン・ハイツの話だ。

劇場のオーケストラ席は関係者のテーブル席となるので、一般客は殆どの場合バルコニーから観ることになる。先日好奇心からネットの切符売り場を検索してみたところ、一枚575ドルから775ドルという値段だった。ところが今見ると全て売り切れていたが、別のサイトを探すと一枚2000ドル〜3000ドルで売られている。買う人がいるのだから驚きだ。授賞式後には関係者のパーティーが劇場近くで開催されるのだが、そこに行くには更に一人2000ドルに近い切符を買うことになる。バイキングスタイルのなかなかの食事が用意されているが、沢山の人がいて落ち着かないし、ノミネート作品はそれぞれ別の場所でパーティを開いているので、お目当ての役者がこっちに来ていて話ができれば、最高に幸運だと言っていいだろう。 (5/29/2023)

*ミュージカル主演男優賞
クリスチャン・ボール(お熱いのがお好き)
J.ハリソン・ジー(お熱いのがお好き)
ジョシュ・グローバン(スウィーニー・トッド)
ブライアン・ダーシー・ジェームズ(イントゥ・ザ・ウッズ)
ベン・プラット(パレード)
コルトン・ライアン(ニューヨーク・ニューヨーク)

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