SIX
シックス
SIX シックス

2017年、英国ケンブリッジ大学のエジンバラ・フリンジ・フェスティバル*で学生たちにより演じられたミュージカルが、その後ウェストエンドを皮切りに数々の国際的な公演を経てブロードウェイにやってきた。

あらすじ&コメント

16世紀前半に英国王だったヘンリー8世は、6人の王妃がいた事もあって好色で無慈悲だったと言われることもある。このミュージカルは、その6人の王妃達が現代に蘇ってライブコンサートを開催するという奇抜な設定の作品だ。脚本を書いた二人のケンブリッジ学生(Toby Marlow & Lucy Moss) は、書き始めてからたった10日で基本構想を仕上げたそうだ。王妃達それぞれに現存するポップスターのキャラクターやスタイルを当てはめてイメージし、最初の妻はビヨンセ、次がジェニファー・ロペス、3番目は、アデル、セリーヌ・ディオン、などと言うふうに。

出だしで唄われる歌詞に「Divorced, beheaded, died; divorced, beheaded, survived.(離婚、斬首、死。離婚、斬首、生存)」とあるように、最初の妻キャサリンは娘ともども王宮を追われ、2人目のアン・ブーリンは、やはり娘を生んだが次子を流後に斬首される。3人目ジェーン・シーモアは漸く男児を生んだが産後の日達が悪く、産褥死。ちなみに彼女達の3人の子供は、その後次々と英国王を継ぐことになる。さて飽きないヘンリー8世は、4人目のアン・オブ・クレーヴズが描かれた肖像画に一目惚れ。結婚式で会った途端、実物とは違うと即離縁。5人目キャサリン・ハワードは、かつての恋人との密通が露見して断頭台へ。最後の王妃キャサリン・パーは、ヘンリー8世の最後を見取った後、即離婚して王宮を去って再婚。

こんな彼女達がそれぞれ、コンサート風にマイクを握って観客へ向けて自分の壮絶な人生をソロで歌いあげ、一番悲惨な人生を送った王妃が、このコーラスグループ⦅シンギングチームの方がいいか?⦆のリーダーになるという、独創的なアイデアになっている。

演出家は1996年の「レント」で知られるトニー賞受賞3回というベテラン。衣装の方はガガを思わせるカッコ良さがある。それにしてもプロデューサーにとって嬉しいのは、80分という短さだろう。また舞台設定はコンサートなので、王宮の舞台セットが不要。侍従や大臣などの出演者も考えなくて済む。それに時間的な変遷もないから衣装を着替えなくてもいい。あらゆる面で節約できた作品だったのではないかと想像する。

この作品、既に英語圏の国々で公演が評判を呼んでいたからなのか、ソーシャルメディアを通して知った若いファンが多く集まっていたようだ。ブロードウェイの劇場内には彼らの黄色い叫びが飛び交っていて、まるでポップコンサートのような盛り上がりと勢いを楽しめた。

配役としては6人の妻のうち1人だけを目立たせるわけにもいかず、だからといって主役級をこなすミュージカル俳優6人を揃えるのは無理だったのだろう。発声技術が未熟で高音が耳に痛いこともあった。そんな中でアン・オブ・クレーブス王妃を演じたブリトニー・マックの踊りは切れ味がよく、首や胸部のアイソレーションも見事で目が離せなかった。

*エジンバラ・フリンジ・フェスティバル‥‥直訳すると「副次的なものを集めたエディンバラのお祭り」となる。しかし現地では多くの人が「主流ではないが掘り出し物があるかもしれない、ワクワクする面白いフェスティバル」と捉えている。そしてこの作品もその好例。
10/06/2021

The Brooks Atkinson Theatre
256 W 47TH ST., NEW YORK, NY
公演時間:80分(休憩なし)

舞台セット:6
作詞作曲:8
振り付け:6
衣装:9
照明:7
総合:7
Photo by Joan Marcus
Photo by Joan Marcus
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