第25回パットナム郡スペリング大会
あらすじ&コメント
20代から30代後半の俳優たちが、思春期真っ只中の中学生を演じる。テンポの速いコメディであるが、本作の最大の特徴は観客参加型である点だろう。毎回4名の観客がステージに上がり、コンテスタントとして実際に英単語のつづりに挑戦する。
大会の司会者は、かつての優勝者で現在は不動産業に従事しているロナ・リサ・ペレッティ(俳優:ボニー・ミリガン)。そして単語の出題者は会場となっている公立学校の副校長パンチ氏(ジェイソン・クラヴィッツ)である。彼は単語を出題し、その意味や例文を読み上げ、審査員も兼ねる。この例文が毎回強烈なユーモアを含み、観客を大いに笑わせる。さらに彼は苛立ちやすく、どこか不安定な性格で、司会者ロナへの片思い、生活への不満、奇妙な例文の言い回しなどがユーモアの源泉となっている。
しかし本作は単なるコメディではない。スペリング大会を通じて、それぞれの家庭環境や内面の葛藤が浮かび上がる。
- Olive Ostrovsky(俳優:アヴァ・デラペーニャ)
内気で辞書が友達。母はインドのアシュラムに滞在中、父は多忙で大会に来られない。愛情に飢えた少女である。 - William Barfée(俳優:ケビン・マクヘイル)
昨年のファイナリスト。ピーナツアレルギーで失格になった過去を持つ。足で単語を書く独特の方法でスペルを記憶から呼び起こす。 - Leaf Coneybear(俳優:ジャスティン・クーリー)
繰り上げで出場。自分を賢いと思っていないが、突然「天から声」が降りてきて正解する。 - Chip Tolentino(俳優:ニコラス・バラッシュ)
前年優勝者。今年は思春期を迎え、自分の中に芽生えた性的衝動に戸惑う。 - Marcy Park(俳優:アレクサ・ロペス)
完璧主義の優等生。6ヶ国語を操るが、優秀すぎることに疲れている。 - Logainne Schwartzandgrubenierre(俳優:ナターシャ・ヨベラ)
ゲイの両親の姓を合わせたため長い苗字を持つ(日本語では短縮されることが多い)。最年少で政治意識が高い一生懸命の女の子。
皆、11〜13歳の愛らしい生徒たちの物語である。
ウィリアム役のケビン・マクヘイルはテレビドラマ『Glee』で知られる。鼻声で自信満々ながらもどこか脆さを抱えた少年像を巧みに表現する。「魔法の足」で単語を書く身体表現は見事である。
リーフ役のジャスティン・クーリーは『キンバリー・アキンボ』でトニー賞にノミネートされた実力派。柔らかな空気感が舞台に独特の静けさをもたらす。
演出・振付はダニー・メフォード。音楽・歌詞はウィリアム・フィン、脚本はレイチェル・シェインキン。フィンの楽曲は、コミカルでエネルギッシュなナンバーと、心に刺さるバラードが絶妙に混在する。特に、オリーブと両親が歌う感動的な「The I Love You Song(アイ・ラヴ・ユー・ソング)」、そしてコンテスタントたちの緊張が一気に爆発するナンバー「Pandemonium(大混乱)」は印象深い。
脚本は機知に富み、思春期の揺れ動く心情を巧みにすくい取る。一方で今回のリバイバルでは、現代政治への言及がアドリブ的に挿入される場面もある。ここは作品全体の普遍的テーマからやや浮いて感じられた。青春期の不安や自己肯定の物語の流れに、直接的な政治的メッセージを差し込むことは、ノスタルジックで心温まる世界観を弱めているようにも思えた。
とはいえ、アンサンブル力は高く、甘酸っぱい思春期の葛藤とユーモアがバランスよく描かれている。慰め係ミッチ(俳優:デヴィッド・ジョセフバーグ)の存在も温かい。
実際に4人の観客が舞台に上がり、スペリングに挑戦する仕掛けは本作最大の魅力である。観客参加型という珍しい形式が、ライブならではの緊張と即興性を生み出す。
全体として、思春期特有の不安とひたむきさを抱えた彼らのリアルな葛藤をユーモアたっぷりに描いた、心温まるコメディミュージカルである。
New World Stages
340 West 50th Street, New York, NY 10019
上演時間:1時間45分(休憩なし)
公演期間:2025年11月17日〜2026年9月6日



