Back To The Future バック・トゥ・ザ・フューチャー

Back To The Future
バック・トゥ・ザ・フューチャー

ミュージカル ブロードウェイ
Back To The Future
バック・トゥ・ザ・フューチャー
Back To The Future バック・トゥ・ザ・フューチャー

1985年の大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の舞台化だけあって、オープンした最初の7日間に12万ドルを越える収益を上げた。また、初日一週間前に先だって行われた特別公演では、映画、舞台の両方で脚本や監督など大役を担っていたボブ・ゲイル、ロバート・ゼメキスといった大物が、舞台俳優たちと供にカーテン・コールに参加。その上、映画で科学者を演じたクリストファー・ロイドやマーティーの母親役のリア・トンプソンが登場したばかりか、観客席にはマイケル ・J・フォックスが来ていて、立ち上がってその姿を見せてくれた。当然、おおいに観客が沸いたオープニングとなった(映像添付)。

近年、労働ユニオンの力で製作コストがどんどん上がっていくミュージカル界では、ヒットした映画の舞台化はある程度の利益と投資が望める。そのためプロデューサー達にとっては魅力だ。しかしその映画が大ヒットであればあるほど、それを観たことのない人と熱狂的なファンの双方を同時に満足させるのは、至難の技となる。この作品がロンドンのウェスト・エンドでローレンス・オリビエ賞を受けたこのミュージカルが、ブロードウェイでどう受け入れられるのかは業界人の注目の的となっていた。だが主要な新聞、雑誌のウケはイマイチだった。劇評家達の評価の多くが映画との比較に終始しており、彼らの映画作品好きが伺えるのだが、もしかすると、舞台界への映画人の進出を警戒する深層心理が働いたのかも知れない。

それはそれとして映画を観ていない私は、良く出来たストーリーの展開と完成度の高さに感心した。後日映画を見て観て分かったのだが、このミュージカルは今の文化に合わせて巧くアレンジされていたし、劇場では語りきれない部分はカットされていた。

最後の雷のシーンでは時計台の高さが上手に表現されていたし、デロリアン(タイムマシンの車)のシーンでは、車とは反対方向に流れ飛んで行くプロジェクター背景映像によって、スピード感と立体感があふれて、迫力満点だった。また舞台だからこそ可能な、ある車の操作を行なって観客を沸かせたシーンがあった(ネタバレになるので詳細は控える)。私の知人などは、そこで感激し過ぎて涙が出てしまったと言っていた。ここまで読むと既にわかるかも知れないが、この作品は『スウィーニー・トッド (フリート街の悪魔の理髪師)』のような高い芸術性はないし、車デロリアンが、当然だが歌わないので「これぞミュージカル!」という作品でもない。しかしエンタテイメントという点では、多いに笑ってはしゃげる楽しい作品となっている。

スタッフを紹介しよう。最初に少し触れたロバート・ゼメキスは、映画では監督、脚本を手掛けたが、今回はプロデューサーに徹し、総合的に関わっている。ちなみにゼメキスは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズの IIとIIIも手がけ、数年後にはトム・ハンクス主演の『フォレスト・ガンプ 一期一会』の監督も務めている。また映画でゼメキスと共同で脚本を書いたボブ・ゲイルが今回は、一人で脚本を書いている。彼もゼメギス同様、スピルバーグが製作に携わった作品の多くを書いている。

今回のミュージカルの作詞作曲はアラン・シルヴェストリだが、舞台用のオリジナル曲の他、「パワー・オブ・ラヴ」とか「ジョニー B. グッド」などといった、映画に登場した1950年代のヒット曲も使っている。

役者だが、マーティー役は去年のブロードウェイ・ミュージカル『Almost Famous あの頃、ペニーレインと』のケイシー・ライクスが主演している。彼は高校生の時から舞台に立ち既に様々な賞を受けているが、その後映画制作も手掛けおり、そちらでもいくつかの賞を受けている若冠21歳の多才な注目株だ。かつてのマイケル・J・フォックがそうだった様に、若さ故の不器用さと、可愛さと反抗心、そして、こせこせしていないアメリカの青年らしさが醸し出されている。パーティーで「ジョニー B. グッド」を演奏する有名なシーンでは、ケイシーが実際にギブソンのギターを弾いている。彼は元々プロ級のギタリストらしいが、更にこの為に随分と練習したそうだ。変人発明家の科学者は、1999年の舞台『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』のスヌーピー役でトニー賞をとったロジャー・バートが演じている。その後、2001年のメル・ブルックスのミュージカル・ヒット『プロデューサーズ』でもトニー賞にノミネートされて名を上げている。1955年のバンドの歌手役、そしてカフェのウェイターから地元の市長にまでなる役は、黒人男優のジェラニ・レミィが演じる。ソウル・コーラス・グループのテンプテーションを描いたミュージカル『Ain’t Too Proud』にも出ており、さすがの歌声だ。マーティーの母親役は『ママミア』でソフィー役のアンダースタディとしてブロードウェイにデビューしたリアナ・ハント。マーティーの父親で全て受け身のダメ男ジョージ・マクフライを演じるのは、ヒュー・コールズ。ロンドンではこの役でローレンス・オリビエ賞にノミネートされている。時たま演技が大袈裟過ぎて、ダメ男でももう少し普通に歩けるだろう、とも思ったが、かなり笑わせてもらった。最後のカーテン・コルで彼が、演じた「ぼんくらキャラ」を完全に捨てて、穏やかでハンサムで、知的な印象の男性に変身して出てきたのも面白かった。これも舞台ならではの醍醐味の一つだ。(10/20/2023)

Winter Garden Theater
1634 Broadway ( at West 50th St.)
公演時間:2時35分(15分休憩1回)
公演期間:2023年8月3日~

舞台セット:9
作詞作曲:7
振り付け:7
衣装:7
照明:9
キャスティング:9
総合:9
@Matthew Murphy & Even Zimmerman
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