ビー・モア・チル(上演終了)
あらすじ&コメント
2004年の若者向けの小説を原作とした物語の舞台は、ニュージャージー州にある高校。父親と二人で暮らす高校生の青年ジェレミーは、人との社交が苦手で、学校では友人も少なく、女の子たちにも人気がない。そんな彼にも密かに想いを寄せる女の子がいる。特に美人でもないが、チャキチャキしているアジア系アメリカ人の同じ高校に通うクリスティンだ。彼女の気を何とかして引きたいと思っているジェレミーは、ある日、学内で一目置かれている生徒から、日本で開発されたというSQUIP(Super Quantum Unit Intel Processor/スーパー・クアンタム・ユニット・インテル・プロセッサー)というカプセル薬を紹介される。この薬は脳に働きかけて、物事の判断を良い方向へと導けるような制御を働かせ、自信がなくてカッコ悪い若者が「イケてる青年」になれてモテる様になる、と言うのだ。ジェレミーは仲の良い友人マイケルに相談し、大枚を叩いてSQUIPを購入する。ところが、SQUIPの効果で人気者となっていく反面、彼の思考回路は次第に薬に乗っ取られていき、人生が空回りし始めて、友人マイケルとの関係もうまく行かなくなってしまう。炭酸飲料のマウンテンデューのレッドが、錠剤SQUIPの解毒剤効果を持っていることを知ったジェレミーは、その炭酸飲料を飲んでSQUIPの誘惑に打ち勝ち、もとの自分を取り戻す。
SQUIPのカプセルを飲んだ生徒たちが、次々とそのインテル・プロセッサーによって、考える力をなくしていくところなど、SFの要素も含んだ青春物語となっているのが、この作品の特徴だ。一方、今の世代のアメリカの高校生たちが足を運ぶ飲食店やアパレルのお店などは、実際にあるチェーン店を使い、高校生や大学生の間でカフェインが多く含まれ、SQUIPは若者に絶大な支持を得る実在の炭酸飲料マウンテンデューのグリーンと一緒に飲むと効き、レッドの方が解毒剤になるなど、かなりユーモラスでひょうきんさを持つストーリーだ。主人公を誘惑する架空の錠剤SQUIPは擬人化され、パンクロック風のキャラクターとして登場するが、プロセッサーがアップグレードされて行くのと一緒に、衣装や髪型が派手になっていくところも、マンガチックで楽しめる。
錠剤SQUIPが日本で開発されたという設定から、そのキャラはハワイ出身のイケメンのジェイソン・タムがセクシーに演じているが、所々日本語を話したりするところなど、今、アメリカ人の若者にとって、日本のサブカルチャーがイケてると捉えられていることから考えると頷ける。
今はどの楽曲でも歓声が上がるが、最初この作品の人気の火種になった『Michael in the Bathroom』は、学校の秋の一番盛大なハロウィーン・パーティーで一人トイレに入ったジェレミーの友人マイケルが歌う。「♪ 気まずくパーティーで一人で立っているよりも、トイレで一人いる方がいい。 大勢に囲まれたいるのに、一人テキストを送っているフリをするのも辛い。僕がここで消えても、誰も気づかない」という歌詞が、10代の若者の心を掴んだ。ニューヨークの演劇専門校(AMDA)のオーディションでは、同作品のミュージカルナンバーを選曲する若者が随分と多いらしい。キャスト盤の録音がリリースされる以前に、ネット上の映像により人気を獲得してきた流れは、ブロードウェイのプロデューサーらは、かなり関心を持って眺めていたことだろう。
振付けはミュージカル『ノートルダムの鐘』のチェイス・ブロックが担っている。
3/29/2019
The Lyceum Theater
149 West 45th St.
New York, NY 10036
上演時間:2時間30分(休憩15分含む)