Between the Lines
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人気小説家のジョディ・ピコーと当時まだティーンエイジャーだった娘のサマンサ・バン・リアーが、青少年を対象に書いた小説を原作としてミュージカルに仕立て上げたのが本作品となる(題名は同じ)。脚本を手掛けたのは子供向けの話を舞台化することで腕を奮ってきたチモシー・アレン・マクドナルド。監督はデズニーのミュージカル『ニュージーズ』でトニー賞を受けたジェフ・カルホーン。作詞・作曲は、やはりデズニーのアニメの曲を多く制作しているアリサ・サムセルとケイト・アンダーソンのコンビ。そして主役のアリエル・ジェイコブスもまた、デズニーの『アラジン』で王女を演じている。オフにしては10人もの俳優が出演する、ちょっと豪華なデズニー調ミュージカル作品になっているのも、この顔ぶれならば納得がいく。

あらすじ&コメント

主人公のディライラは、17歳になったばかりの本が好きで好きでたまらない青年女子だ。父親は数年前に家を出てヨガの先生と家庭を持ってしまっていた。母親は家政婦として働きながらも夜は看護婦になるための勉強で、忙しい毎日を過ごしている。兄弟がいないこともあって、家で話す機会が少ないこともディライラが本に熱中する理由かも知れない。学校でも本ばかり読んでいて変わり者と思われている。そのせいで益々読書に没頭して、寂しさを紛らわしているのかも知れない。そんな彼女は、最近おとぎ話の主人公、オリバー王子が気になって仕方がない。「この歳で子供の話に夢中になるなんて」と恥ずかしく思いながらも、その本を手放すことが出来ないでいた。ところがある日突然本の中のオリバー王子が、彼女に話しかけてきたのだった。

冒頭で触れたように俳優陣は10人なのだが、主人公を除く彼らが、現実世界と本の中の世界の役を掛け持ってこなしている。20程あろうかと思われる各役を違和感なく観れるのは、ベテラン俳優を揃えたことが功を奏している。歌や踊りもハイレベルで、ブロードウェイミュージカルの層の厚さを感じる。2時間半もあっという間だ。子供であってもそうだろう。

ディライラの母親が歌う曲以外は朗らかな調子で、中でも人魚のトリオが歌う「Do It For You」と高校の生徒達が唱う「Inner Thoughts」は明るくて秀逸だ。

「Do It For You」を歌うのは、ミュージカル『Jagged Little Pill』でジョーの代役だったレン・リベラと、ベテランのビッキー・ルイズ、そしてオフ・ブロードウェイが初めてのジェルーシャ・カバゾスの三人だ。そして「Inner Thoughts」は、スタートレックのスポックを若くしてハンサムにした顔立ちでダンスの上手いウィル・バートンや、ユーモアのセンス抜群のショーン・スタック等が唱う。

ただ先述のビッキー・ルイズが演じる化学の先生と図書館員/司書は、どちらもセックスに飢えている独身の中年女性を面白可笑しく演じており、役が似過ぎているので、工夫してほしい。17歳(原本では15歳)の主人公の母親役は、ベテラン、ジュリア・マーニーが演じている。芝居も上手く貫禄も十分なのだが、60歳前後に見える彼女に17歳の一人っ子というのには不自然さを感じてしまう。家政婦の仕事をしながら夜、看護婦になるための勉強している姿を見ていると、「近々看護される側に回りそう」と同情する一方、「旦那さんが去ったのも止むを得ないか」と納得してしまったり、、。しかしこれは大人の感想。子供を連れて家族でブロードウェイに行くなら、このオフはコストパフォーマンスの良いチョイスだろう。王子様と本を開きながらおしゃべりしたり、ディライラがおとぎ話の中に入っていったりなど、大人でもワクワクするのだから。

ストーリーのネタバレ:現実の世界に出て行けない王子様は、ディライラをおとぎ話の中に引き止めようとする。しかしそれが適わないと知り、王子は彼女にもう2度と本を開けないでくれと頼み、別れを告げる。

王子と分かれたディライラは、おとぎ話の著者を探して会いに行く。もしストーリーを書き換えられるなら王子を幸せにできる、と思ったのだ。呼び鈴に応じて玄関のドアを開けた著者は、ディライラが持ってきた本を見て「まあ、これは。息子のために一冊しか本にしなかったのに失くしてしまって。ずっと探していたのよ!」と喜んで家の中にディライラを迎え入れる。しかしストーリー書き換えの願いには、「本は既に生命を持っているの。だから書き替える訳には行かないわ。あなたが自分で好きなストーリーを書きなさい。」と断るのだった。ディライラは、台所に立った著者を見送って、どうしていいか分からなくなり、居間で一人がっかりしているのだった。と、そこにTシャツを来た若者が入ってくる。著者の息子だ。ところがなんと、彼は王子そっくり(王子役が演じている)。

そして時が経つ。ディライラは大学を卒業し、小説家になっていた。そして結婚もしていた。お相手は、あの著者の息子だった。「人生は、自分が主人公の物語を、自分の手で描いていくこと。自分の運命は自分自身で切り開くもの」というメッセージは、若い子にもきっと伝わり、家族で楽しめるに違いない。
(07/20/2022)

The Tony Kiser Theater
305 W 43rd St, New York, NY 10036
公演時間:2時間20分(一回休憩)

舞台セット:9
作詞作曲:9
振り付け:7
衣装:8
照明:8
総合:7
Photo by Matt Murphy

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