Camelot キャメロット

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キャメロット

ミュージカル ブロードウェイ
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キャメロット
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作詞家アラン・ジェイ・ラーナーと作曲家フレデリック・ロウは、『マイ・フェア・レディ』や『恋の手ほどき』などを制作した名コンビ。18年間に7つのミュージカルを作り、彼等が逝って久しい今でも「ラーナー&ロウ」と親しみを込めて呼ばれている。その彼らが、アーサー王の伝説を元に書かれたT.H.ホワイトの「永遠の王」にひらめきを感じ、制作したのが『キャメロット』だ。『マイ・フェア・レディ』の大成功から4年を経た1960年、ジュリー・アンドリュースとリチャード・バートンの豪華キャストでブロードウェイで初演されたのがオリジナルとなる。トニー賞を4部門で受賞し、2年半公演され続けた真の正統派伝統ミュージカルである。が、今回の脚本は、映画『ア・フュー・グッドメン (A Few Good Men)』やテレビ・シリーズ『ザ・ホワイトハウス (The West Wing)』などを書いたアーロン・ソーキンが、現代風に書き変えた作品になっている。

あらすじ&コメント

上演劇場であるリンカーン・センターのビビアン・バーモント・シアターは、張り出しがあって奥行きのあるスラスト・ステージ形式なので、幕はなく非常に深い舞台だ。始まる前から奥の背景にはプロジェクターがしんしんと降る雪を映していて、雄大な自然に恵まれたキャメロットというイギリスの架空の土地の空気が感じられる。舞台装置デザイナーはリンカーン・センターで、何度も成功を納めているマイケル・イヤガン。最初のシーンは霧が湧き立つ丘の上の舞台に、観客からは見えない後ろの階段から一人、また一人と、騎士達のシルエットが登って来て始まる。 今回雪や森など周囲の環境を表現するため、59種類にも上るプロジェクション・マッピングを使ったという。贅沢で豪華だがその色合いや絵柄は気品に溢れ、流石にリンカーン・センターだ。

27人のキャストの衣装はジェニファ・モーラー。沈んだ青色を基調とする舞台を背景に、簡素ながらも鮮やかに映える色調のドレスの数々は、王妃グィネヴィア(ニックネーム:ジェニー)を演じるフィリパ・スーを更に美しく見せていた。アーサー王を演じるのはトニー賞を受賞している32歳のアンドリュー・バーナップ。『キャメロット』のアーサー王を若い男優が演じることは少ないが、やはり若い美男美女が主演の舞台は観ていて楽しい。そこにもう一人のハンサム男、フランス人の騎士ランスロット(ジョーデュン・ドニカ)が加わって、この三角関係が見応えのあるものになっている。

観劇後にオンラインでオリジナル・ストーリーと観比べてみたが、新作では短期間に濃縮して話を展開しているので、キャストは皆最後まで若いままとなっている。その他の大きな違いは、今回のストーリーでは神話的な部分を回避していることだろう。例えば魔術師は賢人となり、アーサーが岩に埋まった剣を抜けたのは、直前にトライした騎士のおかげで既に緩んでいた、というニュアンスになっている。アーサー王の隠し子モルドレッドが謀反を起こすため、王妃ジェ二ーに恋する騎士ランスレットと王妃を結びつけようと企てるのは、オリジナルと同じだ。しかしアーサー王を一晩中森に留めるため、モルドレッドが叔母の魔女とつるんで魔術を使うところは、新しい脚本ではモルドレッドがアーサー王に、自分の母親モーガンが会いたがっていると伝える。モーガンとは、アーサーがティーンエイジャーの時に一晩だけ関係をもった女性で、それっきり会えず、アーサーは仕送りを続けていたのだ。彼女からの願いに驚いた王は、会いに行くと決断する。しかし彼女が住む森は遠く二日がかりとなるゆえ一晩留守にすると王妃ジェ二ーに伝える、という流れになっている。そして彼の留守中にランセロットは王妃ジェニーと密会し、遂に枕を共にするのだった。

多くの劇評が新しいアーロン・ソーキンの脚本に厳しかった。しかし昔の『キャメロット』を観たことがなかった私には、全く違和感はなく、何より魔女や魔術よりも人間的なストーリーの方が面白かった。

戦争を終わらせる為の政略結婚として、自身の意に反してキャメロットにきた王妃ジェニーに対する済まない気持ちがあったのか、アーサー王は女性として愛したい気持ちを抑えて、賢い彼女に折に触れ政治の相談をするのだった。そうこうするうちにアーサーは、信頼できる政策アドバイサーのように彼女を扱うようになる。一方ジェニーはジェニーで、アーサー王が感じているモーガンへの後ろめたさや、ティーンエイジャーの頃の淡い恋を懐かむ気持ちを、真の愛情と勘違いしてしまう。彼女は嫉妬心を恥じる気高い性格から、一眼観た時から抱いた王への愛情に気づかず、最後にはランスロットへの想いに負けてしまう。そして、元々はランスロットに向けて歌われるジェニーのソロ「I Loved You Once in Silence (訳:一眼見た時から誰にも明かさずにあなたを愛していた)」は、彼女がキャメロットを追われて去る前にアーサー王に向けて歌われ、なんか涙ぐんでしまった。

ラーナー&ロウの曲を替えるわけにはいけないから簡単ではなかったと想像するが、主人公達の複雑な心理を丁寧に描き切るのはやや難しかったようだ。従来の神話的なストーリーなら多少理屈が通らなくても、なんちゃって、で見過ごせる。しかし現実的な話となると深読みしてでも納得しようとこちらの努力が要った。3時間という長い作品なので、もう少し遣りようがあった様に思う。

それにしても美しい舞台装置や衣装、そしてトランペッター3人、バイオリニスト6人を含む、ミュージカルとしては贅沢な30人編成のオーケストラが奏でる曲の数々の華やかさ。ジョーデュン・ドニカの歌う「If I ever leave you(あなたと別れるなら)」も凛々しい生命力を感じる。エンタテイメントとしてだけでなく、芸術作品としても十分見応えのある作品だった。 (4.21.2023)

Vivian Beaumont Theater at Lincoln Center
150 W.65th Street
公演時間:3時間(休憩1回)
公演期間:2023年4月13日~

舞台セット:9
作詞作曲:9
振り付け:8
衣装:9
照明:9
総合:9
©️Joan Marcus
©️Joan Marcus
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