Dead Outlaw デッド・アウトロー

Dead Outlaw
デッド・アウトロー

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
Dead Outlaw
デッド・アウトロー
Dead Outlaw デッド・アウトロー
19世紀末から20世紀初頭にかけて実在した強盗エルマー・マッカーディのわずか30年ほどの一生と、死後ミイラとなって過ごした66年間が描かれている。舞台は、ステージの3分の1ほどの大きさの台に7人のバンドマンが乗り込み、フォーク・ロックを演奏する。作曲家デビット・ヤズベック、劇作家イタマール・モーゼス、演出家デビッド・クローマーという最強チームが、トニー賞を総なめにした2018年の『The Band’s Visit』に続いて再結集して送り出す作品だ。ナレーションを担う男優ジェブ・ブラウンは、ボーカルを担当したうえで強盗団のボスにも扮する。他のキャストもステージでマイクを握って歌ったり踊ったり。新たな趣向で面白い。全体がコメディーに溢れていながら哀愁にも満ちた秀作。

エルマーを快適な環境で育ててくれた母親は、父親が亡くなると、実は父の妹が若い頃に生んだ子供だったと彼に継げ、実母のところに彼を返す。しかし実母は彼を育てられない。エルマーは国内を列車で転々とする生活を送るが、急に襲った寂しさと酷い状況への怒りとには打ち勝てずアルコール依存症となる。それでも排水管の修理ができた彼は、ある街で水道屋を継ぐこととなり、愛する女性と普通の生活を送ろうとする。しかしアル中は如何ともしがたく、そんな小さな幸せも掴めずその土地を去ることになる。やがて簡単に稼げるならと窃盗を思い立ち、試してみる。だがそんな能力が元々ない彼は、ドジを踏んでばかり。ついに1911年10月、オクラホマ州で列車強盗をした後、警察に銃撃されて死亡する。

その死体は葬儀屋で、家族などが現れるのを待って防腐処理されたのだが、一向に引き取り手が現れない。そうこうするうちにミイラ化する。そんな噂を聞きつけた男二人が、身内だと偽ってエルマーを買い取り、列車強盗の無法者ミイラとして、サイドショーなどのアトラクションとして展示することになる。その後何度も興行師の間を渡り歩き、66年間の長きに渡って全米を廻ることになる。ミイラとなった当初は、華々しい死後のキャリアのスタートで、アトラクションの人気者だったが、数十年も経つと何処の誰だか忘れられてしまい、遂にはミイラである事自体も否定され、単なる不気味なマネキンだと思われるようになる。そして最後には、南カリフォルニアの遊園地で、アトラクションの一つとして天井からぶら下げられていたのだった。そして運命の1976年、その遊園地でドラマ『600万ドルの男』のロケが行われる。その時、撮影クルーの一人が作り物と思ってミイラに触れたところ、その腕がポロッと落ちてしまう。あっと思って見ると、そこには人骨がついているではないか。これは本物の死体!ということで大ニュースとなり、その経緯が次々に明らかとなっていき、再び列車強盗のミイラとして全米が騒然とする。結局最後には彼が亡くなったオクラホマ州がミイラを引き取り、これ以上見せ物とならないようにとセメントで埋め固められ埋葬されたのだが、今でもその墓石を見にくる観光客が絶えないという。

このエルマーを演じるのは、去年オープンしたミュージカル『SHUCKED』で主演男優を務めたアンドリュー・デュランド。冒頭で星空の下に横たわっている彼が、静かに歌い始めるシーンは美しい。♪夜空は真っ暗だが、ダイアモンドが散りばめられている。手を伸ばせば掴めそうだ。あそこの天で、神様は説教してるんだ。そして一生懸命手を伸ばしている僕らを笑っている。でもそんなこと、僕らには全くわからない♪

前半、エルマーがまだ若い頃、ある街で出会ったマギーと平凡で幸せな家庭を作りたいと望むのだが、親に捨てられたことへの怒りに、こころが和んでなかった彼には無理だった。このマギーを演じたのが『Beautiful』でキャロル・キングを強い歌声で表現したジュリア・ナイテルだ。

遊園地でエルマーが発見された後、そのミイラは検死官トーマス・ノグチにより死因を探られる。この検死官を演じるのがトム・セスマで、落ち着いた声でミイラのエルマーに話しかけながら仕事を進める。その彼の声が、もし彼が本を朗読するなら是非聴きたいと思うほどいい。そして急に検視記録用のマイクを急につかみ、紫色の照明が彼を照り出す中、ナイトクラブ風のナンバーを披露するシーンは最高だ。

後半通じてミイラを演じるアンドリューだが、その個性的な顔はずっと見ていても飽きない。エルマーの死体が棺の中に直立して置かれているので、誰かが動かすたびにたまに揺れて首が傾くのだが、目は半開きのまま。たまにじっと舞台の一人を横目で見つめたりするのも笑える。

ブロードウェイのベテラン、ダッシェル・イーブスを始めとして8人の俳優が数十の登場人物を演じるが、それぞれの役柄への変化も見所。照明はヘザー・ギルバート。サウンドデザインは原田カイとジョシュア・ミリカンによる。

この作品はあらゆる場面で人間臭さが感じられる。たとえばエルマーが仲間と一緒に列車内の金庫強盗をしようとすると、以前入隊していた陸軍の司令官の声が彼の頭に響く。その声は彼を、バカにした口調で説教するのだ。それも、金庫を爆破するためのニトログリセリンを手に取る度に、その声が聞こえてくる。おかげで悉く強盗は失敗。そんなわけで仲間にも見放され、最期は一人で警官達と向き合うことになる。

20世紀初頭の西部カウボーイ時代から、現代のポップカルチャーまでのアメリカの変化を背景に、人生の悲喜こもごもが見事に描かれている。この作品は、本などの朗読を聞けるオーディブルで録音がリリースされる予定のようだ。目を閉じて聞けば、きっと目の前に大西部が広がってくるに違いない。(4/4/2024)

Minetta Lane Theater
19 Minetta Lane
公演時間:100分(休憩なし)
公演期間:2024年2月28日~4月7日

舞台セット:8
作詞作曲:8
振り付け:70
衣装:7
照明:8
キャスティング:9
総合:9
©Matthew Murphy
©Matthew Murphy
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