Lightning Thief, The: The Percy Jackson Musical 盗まれた雷撃:パーシー・ジャクソン ミュージカル

Lightning Thief, The: The Percy Jackson Musical
盗まれた雷撃:パーシー・ジャクソン ミュージカル

ミュージカル ブロードウェイ
Lightning Thief, The: The Percy Jackson Musical
盗まれた雷撃:パーシー・ジャクソン ミュージカル
Lightning Thief, The: The Percy Jackson Musical 盗まれた雷撃:パーシー・ジャクソン ミュージカル

リック・ライアダンによって2005年から上梓が始まったパーシー・ジャクソン・シリーズは、現在42カ国語に翻訳され、トータル1.75億部も販売されたベストセラー作品だ。そのシリーズの第1作目『盗まれた雷撃』は、ニューヨーク・タイムズ紙の児童書シリーズ部門ベスト10に、500週を超えて入り続けた輝かしい記録を持っている。その『盗まれた雷撃』を舞台化した作品を、今回は紹介する。

あらすじ&コメント

この作品は久しぶりのブロードウェイ・ミュージカルということもあって、ニューヨーカーの期待はおおいに膨らんだ。しかし世の中、思ったようには行かない。今のところ主要誌の評価は辛口で厳しそうだ。

2014年と2017年にオフ・ブロードウェイで約1時間尺のミュージカルとして上演された同作品は、劇評家の好評を博した。そこでストーリーを膨らませ、楽曲も増やして2時間物に仕上げたのが今回の作品だ。しかしオフ・ブロードウェイ作品をオンに変容させるのは簡単ではない。オフでは役に立った工夫がオンでは通用しないからだ。安くシンプルな大道具は、オフであれば「チャーミング!」と評される。しかしオンでは「手抜きでは?」と見られてしまう。オフから始まったのだから、その斬新さを残そうというのが今回の作品の意図だったのだろうか。ハデスが支配する冥界は、ただ鉄柱を繋げて組み立てた簡素なものだった。半神半人達のキャンプも同様で、門に「キャンプ・ハーフ・ブラッド」と簡単に書かれたペロンとした赤い布がかけられているだけで、まるで工事現場のようだった。クライマックスでは主人公パーシーが、彼の父である海神ポセイドンの血を引く神技で、水を思いのままに操って戦う筈だが、添付した写真のようにトイレットペーパーが空中に飛び出して勝利を手にしていた。奇抜で楽しい。だが海神ポセイドンは、紙の神でもあったのか?
そんな「???」がトイレットペーパーと一緒に空を舞う。

ストーリーの展開が早く、ギリシャの神々が次々と登場する。また俳優達は、一人二役どころではなく何役も受け持っている。どの神々が何をどう言っていたのかを覚えていないと、ストーリーが分からなくなり混乱するので、筋を追うのは大変だ。難なく付いていっているのは20代のファンだろう。当然原作に精通する彼等は、たいしたことのないシーンでも、「オー」と感心したり、「アゝ・・」と共感の声を上げている。「若いってこう言うことなんだよなぁ」、「小さいことに一つ一つ反応できるなんて可愛いなあ」と、こちらがキュンキュンして彼らの反応を見ている方が、舞台よりずっとエンタテイメントだった。

彼らは、去年若者の心を捉えた珍しい作品としてクローズアップされたミュージカル『ビー・モア・チル』の客層と、それほど離れていない。舞台のスタイルも似ている。それもその筈、脚本、演出、音響デザインのすべてが『ビー・モア・チル』の創作チームと重なっている。とはいえ、作品としての両者は大きく違う。『ビー・モア・チル』がひたすらエンタテイメントに徹していたのに対して、『盗まれた雷撃』は、子育てする親の不甲斐なさへの批判を全面に出している。前者では若者らしい寂しさ、憧れ、不安がコメディータッチに語られるのを観ながら、若者に戻ったような気分に浸ることができた。しかし後者では「僕らは、Impertinent(生意気)なんだ!そして反抗する!」、「僕たちは、大人に反抗して、世の中を良くするのだ!」と宣言するのを聞いて、こちらは対立する大人として観ざるを得なかった。

そんな2時間を費やした末に納得できない気持ちを抱いて家に戻り、ニューヨーク紙の劇評を読んだら、次のように記述されていた。 「親を批判するこの作品を観に来ている若い子達の一枚200ドルに近い切符は、一体誰が買ってあげたんだ?」。妙に納得して笑ってしまった。

主役のパーシー役は原本より年上の16歳くらいに設定されているが、それを演じるのは28歳のクリス・マクキャレルだ。他の若い俳優達が、力んだ演技をしているのに対して、彼だけはポーッとした雰囲気を出し、ホッとさせられた。パーシーの先生役を演ずるライアン・ノウルズは、半人半馬、ポセイドン、ハデス、メドゥーサと次々と役を変えるが、演技の巧さは流石だった。年の功といえよう。パーシーの母親を演じるジャリン・スティールの歌唱力にも同じことが言えよう。

観劇を予定されている方には、まず原本を楽しまれることをお薦めしたい。その上で、観ない、という選択もありだと思う。もし観るまでに時間がない方や、いきなりの観劇に挑戦する方の為に、簡単なあらすじを最後につけておく。当然ネタバレなのでそのおつもりで。

母親の手一つで育てられたパーシーは、学校で勝手な行動をとって退学処分になる。家に戻ったパーシーに母は告げる。あなたの父親は偉大な海の神ポセイドンだと。自身が半神半人であることを知った彼は、同類が集まる「キャンプ・ハーフ・ブロッド」と呼ばれるキャンプ場に行く。そこで最高神ゼウスの最強の武器「雷撃(いかづち)」が盗まれたことを知る。もし雷撃がゼウスの元にすぐに戻らなければ、神々は権力闘争を始めるだろう。つまり人間の世界を巻き込んだ大戦争が勃発することになる。パーシーは、ゼウスの兄弟で冥界を司るハデスが盗んだのではないかと疑い、他の半神半人の友人達と共に死後の世界に向けて旅たつ。彼らは途上、メデューサなどギリシャの怪物らに遭遇するが、仲間と協力して苦難を乗り越え、やっと死後の世界にたどり着く。しかしハデスの前で、盗まれた筈の雷撃がパーシーのバックパックから出て来る。驚いたパーシーだったがそれも束の間、雷撃を自分のものにしようとするハデスから追われてしまう。なんとか逃れるのに成功して地上に戻ったパーシーは、雷撃をバックパックに忍ばせたのが、実はハデスの息子ルークだったことを突き止める。彼は神々のリーダーシップを批判し、半神半人達が神々を倒して、彼らに変わって世界をリードするべきだと言う。パーシーは神々と争うとするルークを止めようと彼と闘う。父でありポセイドンより受け継いだ「水を操る神技」を駆使したパーシーは、ついにルークを倒し、大惨事発生を未然に防いだのだった。
10/23/2019

Longacre Theatre
220 West 48th Street

上演時間:2時間5分(休憩一回)

舞台セット:7
作詞作曲:8
振り付け:6
衣装:6
照明:8
総合:7
Photo: Jeremy Daniel
Photo: Jeremy Daniel
Photo: Jeremy Daniel
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