Mexodus
メクソダス
Mexodusメクソダス

旧約聖書の出エジプトを意味する“Exodus(エクソダス)”と、“Mexico(メキシコ)”を掛け合わせた造語がタイトルの“Mexodus(メクソダス)”。

オフ・ブロードウェイの劇場で上演され、メディアから高く評価された新感覚のヒップホップ・ミュージカルだ。

あらすじ&コメント

同作品は、奴隷制時代に自由を求めた黒人奴隷が一般に知られたアメリカからカナダというルートではなく、メキシコに逃れたケースがあるという未発掘の歴史を振り返る内容。黒人の逃亡奴隷のヘンリーと、彼を手助けするメキシコ人の小作人カルロスとの出会いや葛藤、そして友情を描いていくのだ。

出演者は原案・脚本・作詞・作曲を担ったナイジェル・D・ロビンソンとブライアン・キハダの2人のみ。彼らが逃亡奴隷ヘンリーとメキシコ人のカルロスを演じるだけではなく、自分自身としても観客に語り掛け、各々のアイデンティティとも向き合っていく。

最大の見所はループを応用したミュージカルナンバー。ステージには農家の納屋の中を連想させる装置が組まれ、その至る所に鍵盤楽器や打楽器、弦楽器、そして洗濯板なども含めた音を奏でられる道具が背景と馴染むように配置されている。出演者の2人が、楽器音や自分たちの声によるヒューマンビートボックスなどでリズムを奏で、そのサンプリングをループさせたビートの上に、ラップの歌詞を重ねていく。クライマックスでは、客席にもマイクを向けて観客の作り出すループで歌うという趣向。

合計16曲が披露され、決まった台本と歌詞はあるため基本的な物語の流れは同じではありつつも、毎回の公演で変化があるジャムセッションのようなステージが醍醐味となる。それと同時に、出演者2人を撮影したライブ映像をスタイリッシュに加工し装置の背後に投影するのも大きな特徴。

劇中にはスペイン語の台詞や歌詞も多くあるが字幕はなく、理解できなくても問題ないというスタンスで、フィーリングを大切にしている。

冒頭では、出演者の2人が自分自身として登場し観客を歓迎、ミュージカルのコンセプトを説明していく。次に最初のミュージカルナンバーが披露され、ナイジェル・D・ロビンソンは自分の先祖が奴隷で、ブライアン・キハダは移民の子だということを明かす。そうした上で、1829年にメキシコで奴隷制が廃止されたことから、1865年までの間に推定4千から1万人の奴隷がカナダではなくメキシコに逃れたという、教科書には載っていない歴史を紐解く旨が伝えられるのだ。

2曲目になると舞台は過去に遡り、ナイジェル・D・ロビンソンが奴隷ヘンリーに扮し、ブライアン・キハダはメキシコ人のカルロスになり、物語が始まる。

因みに、1851年を舞台としたこのストーリーは史実を下敷きにしているものの、登場人物の2人を含め全てがフィクション。テキサスのヴィクトリアにある綿花プランテーションで手枷と足枷をはめられ、過酷な労働を強いられる日々を過ごしていたヘンリー。

ある日、彼は主人の妻から納屋に呼ばれ、性的関係を持つことを強要されてしまう。ところが、それが主人に見つかりヘンリーは殺されそうになる。自身の命を守るため、ヘンリーは仕方なく主人を殺め、逃亡することとなるのだ。泳げないヘンリーは綿俵にまたがり、メキシコとの国境の川を渡ろうとするが、岩で胸を負傷し溺れてしまう。

そんなヘンリーを助けたのがトウモロコシを栽培するメキシコ人の小作人カルロス。米墨戦争で衛生兵だったこともあるカルロスはヘンリーの胸の怪我を手当てして、農場の納屋に匿い看病する。一方で、回復したヘンリーは農場で働くノウハウを身に着けていることから、カルロスのトウモロコシ栽培の手助けをし、互いの信頼は次第に深まっていく。

しかし、殺人犯でもある逃亡奴隷のヘンリーはお尋ね者となっており、追手が迫ってくる。ヘンリーが農場に匿われていることを追手が突き止め、彼が拘束されるのは時間の問題だった。カルロスの助言を受け、メキシコ人に成りすまして先住民の部族によって守られた安全な聖地へと旅立つことを決意。2人は互いの深い絆を確かめ合いつつ別れを告げ、ヘンリーは晴れて自由の身となるのだ。

こうして物語が終わると、再び自分自身に戻った出演者2人が客席にマイクを向けて得た音源によるループで最後の楽曲を歌う。知られていない歴史を語ることの大切さと同時に、国境のない2国間という理想に思いを馳せる。そして、“ブラック=黒人”と“ブラウン=ラテン系”に対する変わらぬ偏見と差別が残る社会を憂いていく。さらには、国境にある“トランプの壁”にまで話題は広がり、過去には壁のない国境を越えて逃れた人々をメキシコは受け入れたが、今ではアメリカが人々を受け入れなくなったと指摘、ラップを披露し完結するのだ。

アメリカ史を描く革新的なヒップホップ・ミュージカルだからか、“第2のミュージカル『ハミルトン』”との呼び声もある。完成度の高い作品だけに、今回の399席の劇場での期間限定公演で終わるのは忍びない。

作品の生みの親となるナイジェル・D・ロビンソンとブライアン・キハダが出演することで初めて成立する舞台のような印象を受けるが、2人にはそれぞれアンダースタディがおり、今後は複数のカンパニーでの上演やロングランの可能性が広がる。すでにツアー公演の計画は進行中のようで、今後の動向から目が離せない。(10/6/2025)

Minetta Lane Theatre
18 Minetta Ln, New York, NY 10012

上演時間:1時間30分(休憩なし)
公演期間:2025年9月9日~11月1日

舞台セット:8
作詞作曲:9
振り付け:7
衣装:7
照明:7
キャスティング:9
8
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown
@ Curtis Brown

Lost Password