オクラホマ!
あらすじ&コメント
最近の流行で、劇場自体が作品に合わせて模様替えされている。まるで当時のオクラホマ州にあったダンスパーティー会場のように、壁にはライフルが飾られ、床や壁が安っぽい板張りになっている。スリーサイドステージになっており、観客との一体感を重視したのだろう、、照明もステージと客席の明るさに差をつけず演じられる。劇が始まると、太陽の下の場面では観客席にいるこちらも手に持つプレイガイドが読めるほど明るい。夜、ジャッドの家でカールとジャッドが話し出すと、劇場は真っ暗になってしまいセリフだけが聞こえてくる。演劇なのに何も見えないのはあんまりだと思っていたら、いきなり背景の白壁に大きな俳優の顔が映し出された。それは主役のカーリー(Damon Daunno)が恋のライバルのジャッド(Patrick Veill)を手持ちカメラで実況していたのだ。最近の映像技術を利用して写実的に対象を捉えたいのだろう。役者がカメラマンを兼任するわけだ。
ストーリー展開にも斬新な試みが見られる。従来は第一幕の最後にあるカーリーが夢を見るシーンは完全に省かれて、その代わりに二幕目は黒人女性のダンスで始まる。彼女はDream My Dreamと書かれたダブダブの白いTシャツを着て、単純な振り付けのモダンダンスを踊り続ける。短時間ならアクセントになるだろう。しかし延々と続くので、意味が分からず踊りが好きな私でも退屈になった。意味不明といえば、そのダンスの間にブーツが何足も天井から降ってくることもあった。いったいあれは何だったのだろう。 そして終盤の見どころ、元作品ではかたき役ジャッドが、カーリーとロリーの結婚式場に乱入してナイフで彼を襲う場面だが、今回はナイフが銃に代わっている。しかもジャッドがそれをカーリーに渡し、自分を撃たせるという展開になっている。身を投げ打って殺人の罪を着せようというのだろうか。大団円では正当防衛で無実になったカーリーが、やはり返り血を浴びた新郎新婦と一緒に、他の皆と楽しそうにあの有名な「オクラホマ!」を歌う。これは相当に不気味だ。シュールレアリズムだったのだろうか。
昔の作品はリバイバルをする際、いろいろな解釈があって然るべき。しかし、ここまで昔の名作を本質的に変えるなら、演目名を変えて発表して欲しい。演目を名作と同じにすれば社会の関心を引き、集客も期待できるので、営業的なリスクを回避できる。しかしあれほど劇中で冒険をしているのだから、演目名を変えるのがいい。『オクラホマ!』ではなく、たとえば『カーリーとジャッド』などと言うように。そのつもりで観れば、また違った評価ができたかも知れない。昔の『オクラホマ!』を期待していたのだろう、2幕目が始まる前に帰ってしまう老人達も多かった。
メンヘラで傷つき易いジャッドを演じたPatrick Veillは、哀愁を帯びて魅力的だった。カーリー役のDamon Daunnoによるギターの弾き語りも見事で、恋人ロリーを演じるRebecca Naomi JonesとDamon Daunnoが唄うハーモニーには、心が蕩ける。アニー役のAli Strokerは は足が不自由で車椅子で演じるが、上半身とその歌声でアニーの男好きなキャラクターの魅力を100%表現していた。彼女が車椅子に乗っていることなど、途中で意識から消えてしまう。 一方ロリー役のレベッカ・ナオミ・ジョーンズは綺麗だし歌もうまいが表情が少ない。勝気過ぎて素直にカーリーへの好意を表現できない女の子のセリフなのに、彼女からはそれは伝わってこない。
4/11/2019
千秋楽:9月1日2019年
Circle in the Square
235 W 50th St.
上演時間:2時間30分(15分の休憩含む)