Once Upon a One More time ワンス・アポン・ア・ワンモア・タイム

Once Upon a One More time
ワンス・アポン・ア・ワンモア・タイム

ミュージカル ブロードウェイ
Once Upon a One More time
ワンス・アポン・ア・ワンモア・タイム
Once Upon a One More time ワンス・アポン・ア・ワンモア・タイム

ポップのプリンセスとも呼ばれるブリトニー・スピアーズのヒット曲22曲が散りばめられた本作品は、よくある伝記風のジュークボックス・ミュージカルではない。タイトルが匂わせている通り、お伽噺のシンデレラや白雪姫、眠れる森の美女など、おなじみの主人公が6人も出てくるブリトニーとは関係のない話に仕立てられている。お伽噺の語り始めによく使われる「Once Upon A Time(昔昔、〜)」をブリトニーのヒット曲「Baby, One More Time」と合わせて語感も良く、シャレたタイトルとなっている

シンデレラは繰り返して演じるお伽噺のストーリーに、なんとなく腑に落ちない気持ちになってきている。そして親しい白雪姫や他のプリンセスらと一緒に、自分等だけの新しいお伽噺を作ろうとする。そんな彼女たちの前に現れたのは、OFG(Original Fairy Godmotherの略)と呼ばれるフェミニストの妖精。彼女に導かれ、二人は確実に女性としての新しい生き方に目覚めていき「王子様と幸せに暮らしましたとさ」というような結末に飽き足らなくなっていく。この展開は、今年初めにオープンしたやはりフェミニストのメッセージを掲げたミュージカル『&ジュリエット』や、お伽噺に読者が入ってしまう去年のミュージカル「Between The Line」(いずれも「ブロードウェイ交差点」の記事参照)に、似てなくもない。

脚本のジョン・ハートメア(Jon hartmere)と、お伽噺のナレーター役を演じるベテラン男優アダム・ゴッドリー(Adam Godley)とは、16年来のパートナーらしい。王子役を演じるベテラン、ジャスティン・グアリニ (Justin Guarini)は、大声で歌い上げるドラマチックな曲や、面白おかしいユーモラスな曲も自在に熟す上、笑いを繰り出すタイミングも絶妙だ。髪がチリチリで日焼けした彼はスポーツ選手のようで、ディズニー映画に出て来る城住まいの王子様のイメージとは違う。今のダイバーシティーを重んじるブロードウェイの中、意図して選ばれたのだろうが、とにかく歌い始めた途端にその素晴らしい才能に魅了される。演出と振付は、夫婦でチームを組んでいるキオネ&マリ・マドリッド(Keone & Mari Madrid)による。幕が開くとブリトニーの曲のスタイルにぴったりと合ったキレのあるダンスが繰り広げられる。これこそブロードウェイならではのダンサー達によるレベルの高い踊りが披露される。そんなこんなでユーモアありダンスありのルンルンの一幕目だった。

だが二幕目になると、シンデレラの「(お伽噺の)ナレーターの言う通りにはならな〜い!」という主張がメインになってくる。派手な映像プロジェクターを駆使したシーンもあるのだが、曲やダンスは少なく、一幕目のような盛り上がりは見れない。

あるシーンではシンデレラが、「私は自由になる!」と言いながら歌舞伎の様な早替わりを披露する。替わった後の新しい衣装は薄くキラキラした素材の、胸や足を大胆に露出したドレスだった。それはそれでセクシーで素敵なのだが、正直白けた。ニューヨークなら週末になると、似たような肌を露出したドレスでクラブに行く若い女性達が普通に歩いている。これは女性が男性の目を惹くための一つの手であり、男性も大歓迎である。勿論、男性もあの手この手を使って目立とうとする。これは地球に人類が登場した時からの理(ことわり)であって、昔から延々と続く男女の遊びなので大いに結構だと思う。が、新鮮味はない。今更、「男性の思い通りにならない自由な姿」がそういうルックスだというのも、お粗末だ。

あらゆる常識を壊して、良い悪いには関わらず独自の世界を築いたブリトニーとは真逆の、枠にはまったストーリー展開になってしまっている。キャストも振り付けもブリトニーの歌のすばらしさに相呼応した高いレベルだった分、惜しい。現在ブリトニーの曲は、他のブロードウェイ・ミュージカル「ムーラン・ルージュ」や先ほど触れた「&ジュリエット」でも使われている。彼女の最近の生活はさておき、その才能と人気の凄さを示していると言えるだろう。(7/28/2023)

*同作品は9月3日にその幕を閉じることが公表された (8/23/2023)

Marquis Theatre
210 W. 46th Street
公演時間:2時30分(休憩1回)
公演期間:2023年6月22日~

舞台セット:7
作詞作曲:9
振り付け:9
衣装:7
照明:7
キャスティング:8
総合:7
By Matthew Murphy
By Matthew Murphy
By Matthew Murphy

Lost Password