Parade
パレード
Parade パレード

19世紀初頭のレオ・フランク事件を元とした社会派ミュージカルで、1998年に発表されトニー賞 (最優秀脚本賞、最優秀楽曲賞)を受賞している。

あらすじ&コメント

レオ・フランク(31歳)はニューヨークの名門大学の工業専門科を卒業後、妻の故郷ジョージア州の首都アトランタで鉛筆工場の工場長となっていた。ブルックリンで育ち、真面目でシャイだった彼は、農村から出稼ぎで来ていた工員の人達にどう話しかけて良いのか分からず戸惑っていたが、工員たちもユダヤ人のレオをよそ者扱いしていたのだった。

1915年の復活祭の翌日、前日から家に戻っていなかった工員のメリー・フェイガンが、工場の地下室で死体となって発見される。13歳だった彼女は復活祭のパレードを観た後工場に立ち寄り、レオ・フランクから給料を受け取っていったことが判明する。そしてレオは、性的暴行と殺人容疑で逮捕される。当時の裁判は偏見に満ちた一方的なもので、証拠がない中、死刑が宣告される。彼の妻は、ジョージア州知事に忍耐強く働きかけ、裁判が如何に不公正だったかを訴え続ける。その甲斐あって終身懲役への減刑が実現する。しかし彼女が更なる減刑を求める最中に、レオ・フランクは25人のアトランタ市民に牢屋から連れ出され、絞首刑のようにして殺害される。だがこのリンチについて、容疑が明確だったのにも拘わらず誰も刑に服することは無かった。そればかりかレオの減刑を決めたジョージア州知事は、社会的地位と政治家としての未来を奪われて他の州へ逃げざるを得なかったのだ。

この作品には歴史的な社会問題が取り上げられているのだが、中心に流れているのはリオと妻との強い愛情物語となっている。それゆえ最後にレオが、ユダヤ教の祈りを捧げながら殺される場面は痛ましい。

レオ・フランク事件は、反ユダヤ人差別を象徴していると言われる。しかしそれだけではなく、当時、農場での働き場所を失って街に出てきたものの、都会の底辺で貧しく暮らさなければならない工場労働者達の憤懣が、ユダヤ人管理層に向かったことも描かれている。

今回のレオ役には『 Dear Even Hansen(ディア・エヴァン・ハンセン) 』でトニー賞を受けたベン・プラットが抜擢されている。彼もユダヤ系アメリカ人だが、一見冴えないルックスから醸し出される個性的な雰囲気と美しい歌声で、人気の俳優だ。またレオを陥れる証言を行う黒人コンリーを演じるアレックス・グレイソンのバラードは凄い迫力で、是非近いうちに再度その歌声を聴きたいと思う。デイン・ラフリーの舞台セットはシンプルながら良くできている。背景は当時の新聞を映し出すこともある。そして舞台の中心に置かれた1メートルほどのもう一つのステージは、裁判所になったり、州知事がスピーチをするステージになったり、レオの自宅になったり、牢屋になったりして効果的に使われている。

今回ブロードウェイのレビューの最初の晩、劇場から出てくる人々に厳つい人達がビラを配っていたのだが、そこに「ユダヤ人レオ・フランクは小児性愛で、子供殺しの犯罪人だ!」と書かれていたのには驚いた。新ナチ主義者たちだったのだ。最近はBLM運動など、黒人偏見問題がメディアで扱われる事が多い一方、問題意識が表には出てきていないが、反ユダヤ人暴力の増加は深刻でユダヤ教会堂なども狙われている。

人種の坩堝ニューヨークでは、それぞれが持つ文化のおかげで豊かな芸術やエンタテイメントが花開いている。しかし移民の歴史の影には誤解や妬みや恨みが渦巻いていることを忘れずにいたい。話は飛び過ぎるかも知れないが、日本でも最近移民が増えつつあるのを統計的数値で見ていると、文化や歴史、言語などが異なる人種を受け入れるということが簡単な話ではないことがわかる。 移民とは、来る側と受ける側の双方に決然とした覚悟と強い勇気が求められるものなのだと、つくづく思う。(2.23.2023)

Bernard B. Jacobs Theater
242 West 45th Street
公演時間:2時30分(休憩1回)
公演期間:2023年3月16日~

舞台セット:8
作詞作曲:8
振り付け:6
衣装:8
照明:8
総合:9
©️Joan Marcus
©️Joan Marcus
©️Joan Marcus
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