@ Matthew Murphy

Ragtime
ラグタイム

ミュージカル ブロードウェイ
Ragtime
ラグタイム
@ Matthew Murphy

『ラグタイム(Ragtime)』は、1998年に初演された、アメリカを壮大なスケールで描いたブロードウェイを代表するミュージカルである。2年間にわたって上演され、トニー賞13部門にノミネート、うち4部門を受賞した。豊かでシンフォニックな音楽とともに、人種・階級・移民というテーマを通して「アメリカン・ドリーム」の光と影を浮かび上がらせた作品である。今回のリンカーン・センター版では、28名編成のオーケストラによる重厚なサウンドが劇場を満たし、作品全体のスケールをさらに拡張した見がいのある作品になっている。

原作は、ニューヨーク・ブロンクス生まれのユダヤ系アメリカ人作家E・L・ドクトロウ(E. L. Doctorow, 1931–2015)の小説『ラグタイム』(1975)。作曲はスティーヴン・フラハティ(Stephen Flaherty)で、オープニングナンバーの「ラグタイム」、そして「夢の車輪(Wheels of a Dream)」「彼らに聞かせて(Make Them Hear You)」「昔に戻れない(Back to Before)」はいずれも初演以来愛され続け、ミュージカル史に残る名曲として知られている。

20世紀初頭のアメリカを舞台に、白人上流階級の家庭、ハーレムの黒人コミュニティ、東欧系ユダヤ人移民という三つの集団が交錯しながら、社会の構造と変化を描く群像劇である。黒人ピアニスト、コールハウス・ウォーカー・Jr.(Joshua Henry)が、白人たちによって愛車T型フォードを破壊されたことをきっかけに、復讐と平等の名のもとに立ち上がる物語が中心に展開していく。しかし、作中には彼らだけでなく、当時「時の人」であった実在人物が多く登場し、歴史とフィクションを重ね、物語に多層的な奥行きを与えている。(観劇する方々用に、最後に登場人物リストを記載)

脚本はテレンス・マクナリー(Terrence McNally)。フラハティと作詞リン・アーレンズ(Lynn Ahrens)のコンビは、『ワンス・オン・ディス・アイランド』『アナスタシア』などでも知られ、オーケストラ的で情感豊かなスコアに定評がある。 そして、今回のリバイバルを手がけるのは、2025年7月にリンカーン・センター・シアター芸術監督に就任したばかりのリア・デベソネットである。パブリック・シアターで市民参加型プロジェクト(「Public Works」)を主導し、セントラルパークのデラコルテ劇場などでの野外公演にも携わってきた。彼女は『イントゥ・ザ・ウッズ』(2022)でもミニマルな演出で評価を得ており、同作はトニー賞にもノミネートされている。

今回の『ラグタイム』でも、彼女らしい演出が特徴的である。冒頭、アップライトピアノだけが一台置かれた舞台に黒人少年がぽつねんと立っている。その愛らしさに観客は引き込まれる。やがて舞台下から煙とともに30人ほどのアンサンブルが、有名な「ラグタイム」の曲を歌いながらせり出してくる。それは白い衣装の白人富裕層、暗い衣装の黒人コミュニティ、そして東欧から逃れてきた移民たちだ。彼らの歌唱力は爆発的で、そのオープニングは圧巻で拍手喝采が起こる。

一方で群像劇としての焦点が序盤にやや散漫になりがちである。ミニマルな演出は、例えば最近観劇した『ゴドーを待ちながら』や、彼女が担った『イントゥ・ザ・ウッズ』など非現実的な作品には適しているが、歴史的背景を伴う本作では、この演出スタイルだと中心人物が掴みにくい印象を受ける。

しかし、その弱点を補って余りあるのが、コールハウス役ジョシュア・ヘンリーの美しくまろやかでありながら力強いその声と、存在感だろう。そして、会場であるリンカーン・センターのヴィヴィアン・ボーモント劇場は、プロセニアム形式でありながら、舞台手前が客席に向かって緩やかに張り出す半円形の形状を持ち、奥行きの深い空間設計が豪華である。視界が開け、舞台全体を包み込むような広がりが生まれるため、今回のような大規模な群像劇に適した劇場だ。

『ラグタイム』はアメリカ社会の不平等を象徴的に描いているが、約四半世紀を経た現在、社会状況は完全な平等には程遠いながらも、確かに改善されてきている。オプラ・ウィンフリーは2000年代以降、「世界でもっとも成功した自力の女性」と評される存在となり、2009年にはバラク・オバマが黒人初のアメリカ大統領に就任した。また、合法的に移住した人々の多くは、さまざまな産業で成功を収め社会に貢献している。それでもデベソネットは「今こそこの作品を上演する意義がある」と語り、現代の視点から本作を再構築したと言う。近年のブロードウェイに見られる、自国を批評的に捉え直す傾向と響き合う姿勢である。

また、母(Mother)は夫が長期の仕事で家を離れたことを契機に、社会の不公平に気づき行動を起こそうとする。しかし、メイドを何人も雇い、夫によって保証された裕福な生活に守られた彼女の「目覚め」は、現実の痛みからは距離があり、夫との関係や結末の描き方が単純化され過ぎている点は否めない。(10/15/2025)

【劇中の実在人物リスト】

  • ハリー・フーディーニ(当代を代表する脱出芸人。手錠や水槽などから脱出するエンタテイナー)
  • ブッカー・T・ワシントン(黒人指導者)
  • J・P・モルガン(金融資本家)
  • ヘンリー・フォード(自動車産業の実業家)
  • イヴリン・ネスビット(大衆演芸劇場で人気を博した女性)
  • エマ・ゴールドマン(ユダヤ系移民の社会運動家でアナキスト)

Vivian Beaumont Theater
150 West 65th Street, New York, NY 10023

公演時間:2時間45分(休憩1回含む)
公演期間:2025年10月16日〜2026年1月4日

舞台セット:7
作詞作曲:10
振り付け:7
衣装:8
照明:8
キャスティング:9
総合:9
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