Rolling Thunder  ローリング・サンダー

Rolling Thunder
ローリング・サンダー

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
Rolling Thunder
ローリング・サンダー
Rolling Thunder  ローリング・サンダー

オフ・ブロードウェイで上演中のミュージカル『Rolling Thunder(ローリング・サンダー)』は、舞台とライブコンサートが融合したロック・ミュージカルだ。1960〜70年代の反戦運動とベトナム戦争を背景にしたロック・コンサート+ドキュメンタリー形式の作品で、伝統的なミュージカルとは一線を画している。演奏は、リードギター、リズムギター、ベース、ドラム、キーボードの5人編成のバンドが舞台奥と左右の高台に配置され、ステージの半分を占めている。彼らは、若者たちの間で強く支持された反戦の精神の中で生まれたヒット曲20以上を見事に演奏する。一方、残りのステージで、当時の若者や兵士、市民の経験をもとにした複合的キャラクターが描かれ、実際の手紙や映像資料も紹介され、戦場と故郷の家庭、両方から見た時代の空気が再現される。

あらすじ&コメント

オーストラリア人の演劇制作者ブライス・ハレットが企画・構成・脚本を手掛けた作品で、オーストラリアからブロードウェイにやってきた。初演は2014年シドニーのヘイズ・シアターで行われ、その後2023年に再演された。ハレットにとってニューヨークでの初上演作となる。

ベトナム戦争にアメリカが本格的に軍事介入したのは1965年で、完全撤退は8年後の1973年。オーストラリアもまた、アメリカとの同盟関係(ANZUS条約)、およびSEATO(東南アジア条約機構)に基づく南ベトナムからの要請により約6万人の兵士を派遣していた。単なる国外からの視点ではなく、歴史的関与に根ざした記憶の表現であると言える。本作の演出はケネス・フェローネで、ブロードウェイやツアー公演での演出補などとして豊富な経験を持つ演出家だ。

使用楽曲はすべてアメリカのロックやフォークの名曲で、新規書き下ろしはない。音楽アレンジとバンドディレクションはアメリカ側制作チームが担当し、原曲の精神を保ちながら舞台向けに最適化されている。編曲・オーケストレーションはオーストラリアのチョン・リムとアメリカのソニー・パラディーノによる共同作業で、パラディーノはキーボード奏者兼指揮者としても舞台に立つ。彼は『A Beautiful Noise: The Neil Diamond Musical』で音楽監督・編曲・指揮を務めただけでなく、他の多くの作品に関わってきた実力派だ。曲目は、ジミ・ヘンドリックスの「All Along the Watchtower」、ローリング・ストーンズの「Gimme Shelter」、サイモン&ガーファンクルの「Bridge Over Troubled Water」、CCR(クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル)の「Fortunate Son」、ボブ・ディランの「Blowin’ in the Wind」、ピーター・ポール&マリーの「Where Have All the Flowers Gone」など、60〜70年代の名曲が勢揃いしている。

「All Along the Watchtower」はボブ・ディラン作曲だが、ジミ・ヘンドリックス版のアレンジを採用している点も印象的だったし、「A Hard Rain’s A-Gonna Fall」も、兵士たちがベトナムのジャングルで雨に濡れながら歌う場面に効果的に使われている。ベースを弾いているのは、日本人女性のユウコ・タケダ(Yuko Takeda)。舞台右にいたギタリストは、ジミ・ヘンドリックスがウッドストックで使用したことで有名な白いフェンダー・ストラトキャスターを弾いていた。ミュージシャンたちは、スタジオ録音やライブ経験に長け、ロックやフォークに柔軟に対応できる精鋭揃いである。

出演者は9名で、全員が複数の役(兵士、家族、恋人、市民など)を演じる。登場人物たちは、であり、特定の実在人物をそのまま描くものではない。徴兵された若者たちが戦場での苦難を生き抜き、故郷を思いながら葛藤する姿や、家族や恋人の記録、米国での市民による反戦運動の証言が交錯する。主演はドリュー・ベッカー(ジョニー役)。コンサートのような臨場感と芝居の深みが交差する構成で観客の感情を揺さぶる。背景スクリーンには戦闘ヘリやジャングル、60年代のアメリカの街並みが映し出され、時代の空気を効果的に再現している。演出家のケネス・フェローネは70歳位の方なので、当時の社会の様子を身近に感じていたのだろう。

カーテンコール後、ベッカーは「家族や親戚が軍人の方はいますか?」と観客に問いかけ、何人かが手を挙げると「彼らに敬意を表して拍手を」と呼びかけた。ベトナム戦争当時、兵士たちは命を賭して戦ったにもかかわらず、帰国後は反戦ムードの中で兵士であったことを恥じさせるような空気があり、多くの兵士が精神を病んだ。ベッカーの行動は、反戦を描きながらも軍人関係者への配慮を示したものだろう。

ベトナム系アメリカ人や一部観劇者からは「なぜベトナム側の視点が描かれていないのか」という批判もある。私自身、ベトナムを旅行した際に現地ガイドから、共産主義下、あらゆる面で制限された彼の生活の話を聞き、最後に「なぜアメリカは我々を見捨てたのか。なぜ自由な国を与えてくれなかったのか」と問われ、言葉を失ったことがあった。この作品は反戦を訴えているが、「戦争の様に人を殺すだけが、酷さなのだろうか? ベトナム人約1億2千万人の生活から自由な選択が奪われた事実は、酷いことではないのだろうか?」という答えの出ない問いも残った。

このミュージカルは、エネルギーに満ちた舞台でありながら、静かに心を打つ瞬間もある。俳優たちの演技の間の取り方にはやや未熟さも見られたが、選曲が秀逸で、2025年の今、これだけの名曲を生演奏で一度に聴けることこそ本作の醍醐味だろう。正直、楽曲の権利処理がどうなっているのか気になるところでもある。(7/21/2025)

New World Stages
340 West 50th Street
New York, NY
上演時間:130分(15分休憩一回)
公演期間:2025年724~97

舞台セット:8
作詞作曲:10
振り付け:6
衣装:6
照明:7
キャスト:6
総合:8
@ Evan Zimmerman
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