Some Like It Hot お熱いのがお好き

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ミュージカル ブロードウェイ
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Some Like It Hot  (お熱いのがお好き)』は半世紀以上前にビリー・ワイルダーが監督したアメリカのコメディ映画だが、今回の舞台は、その2度目のミュージカルとなる。映画でマリリン・モンローが演じたヒロイン、シュガー役を、今回のミュ-ジカルでは黒人女優アドリアナ・ヒックスが演じている。彼女は2021年のブロードウェイのミュージカル『SIX』で6人の王妃のうちの一人を演じ、また2016年の『カラー・パープル』ではセリー役を演じている。が、ブロードウェイで一人ヒロインとなるのは今回が初めてだ。脚本はマスユー・ローペズとアンバー・ラフィン。映画とは全く違った味わいとなっている。

あらすじ&コメント

舞台はシカゴのホテルで起きる人殺しの現場から始まる。たまたまそれを目撃したミュージシャンのジョーとジェリーは、犯人達から追われる破目になる。そこでやむなく彼らは女性だけのバンドに紛れ込んで、地方公演に同行して、シカゴから逃げることにする。勿論女装して、名前もジョセフィンとダフニという女性名に変えた。そしてようやく逃亡先の中南米まであと一歩のマイアミに辿り着く。

ジョー(ジョセフィン)はこのバンドの専属歌手シュガーと恋に落ちるのだが、この役をトニー賞2度受賞のクリスチャン・ボールが演じている。彼が近眼のオバサン役に徹していたのは少し気の毒だったが、制作側の狙いもあったのだろう。おかげで引き立ったのがジェリー役のJ. ハリソン・ジーだ。話は少し飛ぶが『キンキーブーツ』の日本版でドラァグクイーン・ローラ役を、早世した三浦春馬が演じて一世を風靡したのを覚えておられる方も多いと思う。そのローラ役を本家ブロードウェイで演じていたのがこのJ. ハリソン・ジーで、以前東京デズニー・シーでビッグ・バンド・ビートにも出ていたらしい。なお存在感を示した女性バンドのボスには大御所ナターシャ・イベット・ウィリアムズが起用されている。『カラーパープル』では、獰猛で果敢に振舞うが故に破滅していく黒人女性を見事に演じていた。

舞台セットは大掛かりで、バックで踊り歌うコーラスやアンサンブル演者達も多く、まさに本格的でド派手なブロードウェイ・エンタテイメント作品となっている。ハイテンポの動きが果てしなく続く踊りで、若いダンサー達が一曲終わるごとに胸で息をしている。休む間もなく次の踊りがすぐに始まるのだが、そのニコニコしたエネルギッシュな笑顔にこちらの心も躍った。

 

<以下一部ネタバレを含む>
ジェリーは既に触れたように女装していたのだが、やがてその方が本当の自分らしくて心地良いと徐々に感じ始める。ここが後半の主要なテーマとなっている。高身長のJ. ハリソン・ジーはハイヒールを履くと見上げるばかりの高さだが、女装がとても似合っていて純粋で可愛い雰囲気がある。そんな彼が演じるダフニ(ジェリー)に恋するメキシコ人の大富豪も、彼(彼女)をそのまま受け入れてプロポーズするのだった。同じ人間として惹かれ合った二人の愛情の行方が、ほのぼのとした展開のうちに描かれる。ちょっと『おっさんずラブ』を思い出した。

そしてゲイやトランスジェンダーも実は普通の人たちなのだ、と描かれて舞台は終わる、かと思いきや、自分がトランスジェンダーでゲイなんだと認識し始めたジェリー(ダフネ)は、最後の数シーンであれよあれよという間に変化する。淡い色の口紅は茶褐色になり、目の周りの化粧は濃くなり、付けまつげは長くなり、髪型も服装もケバケバしくなる。そういうルックス自体は悪くない。だがあれはタレントがパーティーやイベントなどで、それを強調して演出する姿であって、ここニューヨークのLGBT の人々も、通段はごく普通のお洒落な女性の恰好をしている。

舞台でそんな一般のトランスジェンダーであるジェリー(ダフネ)が、なぜあのように変化していくのか。この話は、トランスジェンダーもゲイも普通の人々と変わりがないと、それまで描いていたのに、結局古い既成概念を拭いきれなかったようだ。終盤になっての、この相反する演出は、残念だった。
(12/13/2022)

SAM S. SHUBERT THEATRE
225 W. 44TH ST., NEW YORK, NY
公演時間:2時間30分(休憩1回含む)
公演期間:2022年12月11日〜

舞台セット:9
作詞作曲:8
振り付け:9
衣装:8
照明:8
総合:8

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