The Connectorザ・コネクター

The Connector
ザ・コネクター

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
The Connector
ザ・コネクター
The Connectorザ・コネクター

コンラッド編集長は1995年、ライターとしてこの会社に加わって以来、約30年に渡って著名な人気雑誌ザ・コネクターの発刊に情熱を注いできた。ところが50年という歴史を持つコネクター社は、ちかごろ複合企業に買収され、利益増進を厳しく求められるようになっていた。そんな時に面接に来た名門校出身のイーサンを、編集長のコンラッドは大いに気に入り採用する。 働き始めたイーサンは、早速興味深い人物を見つけ出してきては次々に興味深い記事を書くのだった。そのおかげでザ・コネクターの購読者は増え、会社も順調に利益を上げていく。採用決定したコンラッドの眼力が証明されたように映る中、コンラッドはイーサンに政治的な記事にもチャレンジするよう勧め、イーサンもそれに応えるのだった。だがその記事の見事さに疑問を抱くメンバーもいた。それは同僚であり彼のガールフレンドでもあるロビンと、記事の裏取りを仕事としていたメリエルだった。果たしてイーサンが探してくる話は、事実なのだろうか。

あらすじ&コメント

創刊50周年の記念パーティーではコンラッドが乾杯のスピーチを担っていた。彼は雑誌ザ・コネクターは、事実を積み重ねて人間の真実を描いてきたが、これからもそうだと宣言する。「コネクター(コネクトをするもの)」という単語が、人々と真実を繋げるところに意味があるのは分かる。しかし元になる事実がもし間違っていれば、偽りと事実という危うい線を繋いでしまうことにもなりかねないのだ。やがてそれは現実となる。

脚本を担当したジョナサン・マーク・シャーマンは、映画『ニュースの天才』に感銘を受けてこの作品を書いたという。映画の方は、現実にあった話を基にしたセミドキュメントだった。有名な雑誌社で嘘記事を次々に発表する主人公が、人気の頂点にある時、虚構がバレ始め、雑誌界を揺るがすというストーリー。記者の名はスティーブン・グラス。確かに今回紹介するミュージカルの主人公イーサンは、そのスティーブン・グラスを思い出させる。

ミュ-ジカルのストーリーは、残念ながら荒削り感を免れない。たとえばロビンが、女性だからイーサンのようには昇進できないと歌う。だがその背景となる事実は何も描かれていない。その為、女性優先を唱えるポリティカル・コレクトを表明するための、無理に挿入したお話のようにも視えてしまう。また主題に関わるイーサンの動機が見えてこない。何故彼は、あれほどリスクの高い嘘をついたのだろうか。見方を変えればイーサンは、天才的なストーリーテラーなのだ。なのに童話や短編小説あるいはエッセイや評論などを書く創作活動に挑戦すりつもりはないようだ。皆にチヤホヤされたいだけのパーソナリティ障害だった様に思えるが、どちらにしてももう少し、彼の性格を深くえぐってもらいたかった。恐らく観客が、ロビンやメリエルと一緒にイーサンへの疑いを少しずつ深めていく進行にしたかったのだろう。しかしいっそのこと、劇の冒頭でイーサンの素性を明かし、その後コンラッドを始めとする周囲の人々や読者を騙していく様子を描く方が、スリリングだったかもしれない。

作詞・作曲は、『パレード』『13』『マディソン郡の橋』『ハネムーン・イン・ベガス』などのミュージカルで名曲を生んできたジェイソン・ロバート・ブラウン。今回は舞台後方の2階席で演奏しているバンドの指揮も彼が執っている。実に贅沢なミュージカルと言っていいだろう。コンラッドを演じた男優をどこかで見たことがあると思っていたのだが、それもそのはず、スタートレックの続編シリーズで船長を演じていたスコット・バクラだった。他方イーサンを演じたベン・レヴィ・ロスは、『ディア・エヴァン・ハンセン』でアンダースタディー(主役の代役)からキャリアを始め、ツアーではエヴァン役を演じていた。非常に艶のある声の持ち主で、未だ若干26歳の将来有望な役者だ。舞台装置はベアウルフ・ボリが担っている。1、2段上がる舞台背景には拡大したザ・コネクターのページが一枚一枚ぶら下がっていて、シーンによってはそこに映像が映し出される仕組みになっている。ツヤツヤの黒い床には光の線を格子状に巡らせ、まるでチェス版のようでモダンだ。家具は最小限。シンプルな机や椅子が時々出てくるのみ。サイドには記事のドラフト原稿と思われるコピー紙が積み上げられているだけではなく、それらを倉庫に貯蔵する為の紙箱もたくさん置いてある。それらの紙の山に隠れて、そのシーンでは出番のない俳優たちが、演者を見つめている。

ともかくもロビンによって虚偽は暴かれ、編集長コンラッドは責任を負って辞職する。

ザ・コネクターはイーサンの「エルサレムの嘆きの壁」が載った刊を最後に、50年の歴史に終止符を打った。

ミュージカル中ではイーサンの三つの記事が歌と踊りで描かれていて、各々が秀逸な仕上がりになっている。一つ目は、ヒッピーのようでユーモラスなスクラブル(ゲーム)の天才に注目した記事で、主役をマックス・クラムが独特な雰囲気で演じている。二つ目は、ティーン・エイジャーと一緒にマリファナを吸う上院議員の隠し撮り映像の所有者が主役。彼は黒人のラッパーで、肥満とも言える体格の持ち主のファギー・フィリップが演じている。彼のキレのある踊りと力強い歌声に、心を動かされない人はいないだろう。最後となる三つ目の記事、これは先に触れたザ・コネクターの最終刊に載った記事なのだが、エルサレムの「嘆きの壁」に掛けた願が成就した15人の話をイーサンが歌い上げている。実は「嘆きの壁」には願いを書いた紙を壁の穴に詰めて成就を祈る慣習があるのだ。この作品は休憩無しで100分と短いが、この三つの記事を扱ったシーンを見るだけでも十分な価値がある。どれも素晴らしい演者、メロディー、振り付けで支えられていて、最後のスタンティング・オベーションでは多くの歓声が上がっていた。(3/1/2024)

Newman Mills Theater
511 W 52ndStreet, New York, NY 10019
公演時間:1時間45分(休憩なし)
公演期間:2024年3月17日閉演

舞台セット:8
衣装:7
照明:7
キャスト:8
総合:8
© Joan Marcus
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