楽屋
あらすじ&コメント
俳優になることを目指し夢見る演劇部の大学生男女4人(ジョン、クリフ、アナ、ディボンヌ)の物語。舞台は彼らが多くの時間を一緒に過ごすカリフォルニアの、とある大学の劇場の楽屋(グリーン・ルーム)である。
ジョンは同じ演劇部でガールフレンドのアナと3ヶ月以上デイトしているのに、まだ保守的なアナとベッド・インが出来ない。彼はこれ以上待てないと言い、アナは決心して彼と寝る。ジョンは建築会社を営んでいる父親から「会社を継いでもらう為に、今から大学を辞めて会社に入って欲しい」と言う連絡が届き悩んでいる。一旦は大学を辞めようと決心するのだが、アナと彼女の弟に止められる。というのも、この姉と弟の父親は成功した起業家で、4人が大学を終えた後、クリフの脚本による作品を、オフ・ブロードウェイで公演するお金を提供して、それに4人を出演させてくれると言っているのだ。そこでジョンは演劇のキャリアで頑張ることにする。
クリフはもう一人の演劇部の友達ディボンヌに夢中だが、彼女は彼には興味がない。もう付き合えないと言う理由に「実はレズビアンなのよ」と嘘を言ったりする。しかし、クリフはめげない。
数年が経ち、4人の卒業も間近い。いよいよオフ・ブロードウェイのデビューももうすぐだ。しかし4人はいくつかの問題に直面する。クリフの父親は「4人が無事に卒業できたなら」という条件付きで、オフ・ブロードウェイの資金を調達しようと言っているので、単位が取れなければオフでのデビューも無くなるのだ。真剣に勉強していなかったジョンは、「そんな事は聞いていなかった、何てひどい話だ!」と焦る。成績のいいアナ以外の3人は、最後になって慌てて試験勉強に取り掛かる。しかし、他にも問題が出てきた。元々保守的でふしだらなことを嫌うアナは、クリフの書いた作品に出たくないと言い出したのだ。というのも、彼女の役柄は黒い革のTバックだけを纏って舞台に出てくる性的に相手を支配する女性の役なのだ。しかしアナが出なければ、父親からの資金はなくなる。皆はアナに「僕らの為に我慢して。でないと君のおかげでオフ・ブロードウェイの舞台に、皆が立てなくなってしまう〜!」と言う。結局アナ自身がそのセクシーな衣装を手直しすることで、この騒動もおさまった。そして4人は頑張るぞ〜と元気に歌う。
コメディー・ミュージカルだが、粗筋自体に笑える展開はない。若い男女の友情や性や、未来への不安など大学生らしい課題は表面をサラッとなぞるだけで、次の話に転換して行ってしまう。コメディーだからと言って、若い大学生にまつわる課題に触れる以上は、そこに多少でも識見を含めてもいいと思う。若い大学生だからと言って悩みが薄いというものでは無いのだから。
一方、このポリコレが厳しい時代に、レズビアンや女性活動家から改善の要請が来そうなあらすじやセリフを、堂々と前面に出しているのは小気味好い。ポリコレの唱えるままに従う作品揃いの最近のブロードウェイやオフ・ブロードウェイを考えると、その勇気は称えたい。
歌詞は凝っていてユーモラスな楽曲は楽しい。それぞれのメロディーに個性があり、耳にも残る。もっと上手く歌ってもらうに値する楽曲だった。キャストのオーディションで「とにかく若い子を採用したい」という思いが制作側にあったらしく、能力よりも若さを優先した様だ。ソロは聴くのが辛い部分があった。ただソロの音程や声量の不安定さも、「大目に見ようかな。まだ若いし・・今後、頑張ってネ」という母性本能が唆られる。4人のデュエットはソロとは打って変わって不思議なくらい耳に楽しく素敵だ。
劇場はかなり古く、4〜50人位の席の小さいものだったが、昔の小さいアパートかホテルを改造していくつも劇場を入れた様なところで、オードリー・ヘップバーン主演の映画「シャレード」を思い出す螺旋階段がある。その階段を降りながら、こんなところに住んでみたいものだと思った。ニューヨークは面白い。こんな小さい劇場も含めたオフ・ブロードウェイの劇場が、100近くもこの狭い都市に散在している。
家に戻ってから、ふと、実はこの『The Green Room』のストーリーは現実を基にしたもので、脚本家とキャストは、もしかしてプロデューサーらの家族なのでは?と、作品資料にある創作者達の苗字を、無用に照らし合わせて確認してしまった。
9/26/19
公演期間:9/27/2019~10/27/2019
Sargent Theatre
314 West 54th Street
上演時間:1時間35分(休憩一回)