The Outsiders  アウトサイダー

The Outsiders  アウトサイダー

ミュージカル ブロードウェイ
The Outsiders  アウトサイダー
The Outsiders  アウトサイダー

未だ10代だったS.E.ヒントンが、自身の住むオクラホマ州タルサを舞台に書いた小説 『アウトサイダー』は、当時同世代の若者の間で絶大な支持を得た。かれこれ60年ほど前の話だ。その後1983年にF・コッポラ監督で映画化され、後に有名になる多くの若手俳優がそこでデビューを果たした。そしてこの4月、アンジェリーナ・ジョリーがエグゼクティブ・プロデューサーとなって、ブロードウェイでオープンした。どうやら彼女の15歳になる娘がサンディエゴの大学内でこの作品の試験公演を観て、アンジーに勧めたらしい。このS.E. ヒントンの小説を元とした作品は、若者たちの大人社会に対するいらだちと反発や、それを解消できずに相手ばかりか自分の心や体も傷つけてしまう若者達を描いている。彼等が直面する様々な問題を描くアメリカ青春文学の流れを汲む作品の一つだ。

14歳の主人公ポニーボーイは、まだ大人ではない。しかし子供でもない。そんな中途半端なやりきれなさを、彼と彼の友人や家族も一緒に丁寧に描いたミュージカル。

ティーンエイジャーだった女性作家が書いただけあって「ウェスト・サイド物語」や「ロミオとジュリエット」のように初恋、殺人、火事、事故死、自殺と次々に事件が起こるジェットコースターの様なストーリー展開となっている。が、作曲・作詞のジャスティン・レビーンと演出家ダーニャ・テイモアらを始めとする創作チームの工夫を凝らした演出と、ブロードウェイがデビューというキャスト達の初々しい役作りによって、新鮮で見応えのある作品となっている。そして、ピューリッツアー賞を4度受賞し世界的に知られているアメリカの詩人、ロバート・フロストによる作品「Nothing Gold can stay(何も金色に輝き続けることは出来ない)」が主要なテーマとして使われており、それがこの作品をティーンエイジャーの小説から、もう一段上の高みに引き上げている。この詩では、純粋で美しいものの命は儚く、生は死へ、死は生へ、創作は破壊へ、破壊は創作へと巡る自然の摂理が詠われる。そしてミュージカルの最後には「Stay Gold」という言葉を通じて、厳しい環境の中でも純粋さと美を求めて生きていくことに意味がある、というメッセージが込められる。

劇中に出てくる大人はチラッと出てくる警官だけで、ジョニーの両親も夫婦喧嘩の声だけだ。ジャスティン・レビーンによる曲はフォークとポップ・カントリー系が中心だ。中でも、『レ・ミゼラブル』、『ああ無情』でのツアー経験を持ち、ポニーボーイの兄を演ずるブレット・カマーの歌声は、さすがにベテランで最も美しく安定していた。嵐の中でのグループ同士の争いは、リックとジェフ・クープマン兄弟による振り付けと、照明ブリアン・マクデビットのストロボ効果で高い緊張感が生み出されている。また小さなゴムの破片を土や砂の様に舞台に敷き、キャストが踊ったり争ったりする際にそれらが跳ねて飛び散る様子は、躍動感を表出していた。

人種の多様性を図る為だろう。準主役の存在であるポニーボーイの親友ジョニーを、ハワイの先住民族系のSky Lakota-Lynchが担っていた。この先彼の演技や歌が洗練されていけば、私も近くに座っていたティーンエイジャーの様に泣いていたかも知れない。悲劇が続くにも関わらず、最後は全て解決して終わるので、シンプルに爽やかな満足感が得られる作品となっている。

(あらすじ)オクラホマ州のタルサの街では、貧困層の若者のグループ「グリース」と、富裕層のグループ「ソッシュ」(Socialソシアルを短くして名前にしている。社会から認められているという意味が含まれているのだろう)というグループがいがみ合っていた。グリースのポニーボーイはまだ14歳だが、最近両親が交通事故で亡くなり、一番上の兄デリルが二番目の兄と彼を養うために学校を辞め、仕事に就きながら家事も担っている。デリルは、頭が良く文才もあるポニーボーイに真っ当な道を歩ませようとする。しかしポニーボーイは反抗。グリースの親友ジョニーと外で遊んでばかりいた。そのジョニーは、両親の仲が悪く、暴力的な喧嘩をしない日はなく、家に居場所はなかった。そんなジョニーを、グリースの兄貴分ダラスは弟の様に可愛がっていた。ダラスは他の町を転々とした末、逃げるようにしてこの町にやって来て、居座った若者だった。そのダラスが「何かあったら自分の身をこれで守れ」とジョニーにナイフを渡す。ある時ポニーボーイは、ソッシュのリーダー格ボブのガールフレンド、チェリーと話す機会を持ち、二人は惹かれ合う。その後、ボブはチェリーから「もうあなたとは付き合わない」と言われ、二人の仲を確信する。ある晩、ボブは、ソッシュの仲間たちと一緒にポニーボーイとジョニーに殴りかかる。嫉妬心に燃えるボブは、手加減をしない。ジョニーはこのままだとポニーボーイの命が危ないと感じ、必死になって助けに入り、やむをえずダラスからもらったナイフでボブを殺してしまう。それを見ていたソッシュ達は、散るように逃げさり、ポニーボーイとジョニーもダラスの元に逃げ帰る。そこでダラスに少し遠くにある廃墟になった教会に隠れていろと言われる。彼らは貨物列車に乗って移動し、誰も居ないその教会に隠れることとなる。二人は静かに時間を過ごし、多くを語り合う。朝日など見ることがなかった彼らは、その黄金に輝く美しさに見惚れ、ロバート・フロストの詩「Nothing Gold Can Stay(金色は永遠に輝くことはない)』という詩について語り合う。

数日後、誰もいないその教会に小さい子供達が入り込んで遊んでいる。しかし突然火事が起きる。ちょうどそこにダラスから食べ物を貰いに行っていたポニーボーイとジョニーが戻ってくる。大変だ。子供達が火に包まれてしまう。二人は迷わず火の燃え盛る中に駆け込み、子供達全員を助け出す。だが二人も大やけどを負う。特にジョニーは重度の火傷で、救急車で病院に運ばれる。二人は多くの子どもの命を救った英雄となり、先の抗争での殺人は正当防衛として許される。ある晩、グリースはジョニーのために決着をつけなければならないとソッシュと戦って勝利。これ以上ソッシュから喧嘩を売られることはないと喜び、病棟のジョニーに報告しに行く。しかしそれを聞いても瀕死のジョニーは喜ばない。ジョニーは、最後に「(君は)Stay Gold(いつまでも輝いて)」と言って、息を引き取ったのだった。 ダラスは、ナイフを渡したことで家族同様だったジョニーを無くした怒りと悲しみのあまり、走る列車の前に立ちはだかって自殺する。一連の悲劇の中でポニーボーイは、二人の兄の自分への愛情の深さを感じる様になり、徐々に心を開いていく。そして子供を救えたことに満足して死んでいった親友を想いながら、一連のできごとを書き留めたのだった。(4/17/2024)

英語一口メモ ✍️
Outsiderとは、「よそ者、ここに属さない者」という意味がある。「I feel like an outsider」と、自分はどこにも属さない独りぼっち、と言う意味になる。この作品内では、ポニーボーイとジョニー、ダラスという社会環境に適応できない若者を指し、そして彼らの寂しい気持ちも表しているのだろう。(4/17/2024)

Bernard B Jacobs Theater
242 West 45th St., NY, NY   between 7th & 8th Ave
公演時間:2時間25分(休憩一回)
公演期間:2024年4月11日〜

舞台セット:7
作詞作曲:7
衣装:6
照明:9
キャスティング:8
総合:8
© 2024, Matthew Murphy
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