The Queen of Versaillesベルサイユの女王

The Queen of Versailles
ベルサイユの女王

ミュージカル ブロードウェイ
The Queen of Versailles
ベルサイユの女王
The Queen of Versaillesベルサイユの女王

フロリダに「アメリカ版ヴェルサイユ宮殿」を建てようと、莫大な資産をつぎ込んで一躍有名になったジャッキー・シーゲルの半生を描いたミュージカル・コメディ。同名のドキュメンタリー映画を基にしているが、舞台で主人公ジャッキーを演じるのはトニー賞受賞者のクリスティン・チェノウェス。ニューヨークの熱心なファンらの期待に応える存在感あるパフォーマンスが見られる。

演出は『春のめざめ』でトニー賞にノミネートされたマイケル・アーデン。その後『パレード』『ワンス・オン・ディス・アイランド』ではトニー賞を受賞した「再解釈の名手」でもある。

1966年質素な家庭に生まれたジャッキーは、若い頃は汗水流して働いていたが、かけた時間がお金に直結するとは限らないことに気づき、コンピューター工学技術の学士号を取得する。その後、投資銀行家と結婚をし、1993年「ミセス・フロリダ美人コンテスト」でタイトルを獲得。これをきっかけに、モデル業など、人から注目される生活へと軸足を移していく。そして家庭を顧みない夫と離婚し、新たな人生を探し始める。

そんな中、あるパーティーで30歳年上の富豪実業家デヴィッド・A・シーゲルと出会う。タイムシェア大手リゾート会社の創業者で、この業界を牽引した人物である。ハネムーンで訪れたフランスのヴェルサイユ宮殿に感動する若い妻ジャッキーに、デヴィッドは「君のためにこんな邸宅を建てよう」と言い放つ。こうしてオーランド近郊に「アメリカ版ヴェルサイユ」と呼ばれる巨大邸宅の建設が始まった。

邸宅は約8,360平方メートルの規模を誇り、2階建ての映画館、ボウリング場、複数のキッチン、2万本収納のワインセラーなど、富を惜しみなく注ぎ込んだ設備が次々と追加されていく。その過剰さゆえにメディアが「ベルサイユの女王」と称するほどで、ジャッキーは一躍話題に上るようになる。

ドキュメンタリー撮影のインタビューで、「巨大な邸宅を建てる意味は?」と問われた際、デヴィッドは「Because we can(できるから)」と答える。この一言はふたりの価値観を象徴するフレーズとして、作品全体で繰り返される。

しかし2008年のリーマン・ショックは夫妻の夢を直撃し、建設計画は大幅に停滞。ジャッキーには前夫とのあいだに生まれた娘ヴィクトリアがいたが、彼女はシーゲル家の一員として育ちながらも、ジャッキーの奔放でゴージャスな生き方と対照をなす存在である。また、ジャッキーの姪も一時期シーゲル家に身を寄せて、その贅沢を楽しんでいた。が、仲良くしていたビクトリアが居なくなった後のシーゲル家に馴染めず、結局離れていく。彼らは「富と名声が家族の幸せを保証するわけではない」の象徴として描かれている。

現在、デヴィッドはすでに他界しているが、今なおジャッキーは完成されない宮殿の建設を続けている。

音楽と歌詞はスティーヴン・シュワルツ。『ウィキッド』『ピピン』などで知られ、映画音楽のアカデミー賞やグラミー賞も複数受賞している作曲家だ。脚本を手がけるのは、リンゼイ・フェレンティーノ。ジャッキーを投影したかのように贅沢を極めたマリー・アントワネットが、ギロチンへ向かうシーンは、歴史の悲劇をユーモラスに再構築した象徴的な場面である。そんなジャッキーは、フランスから(アントワネットの処罰に使われたものではないが)アンティークのギロチンを装飾品として邸宅に取り寄せたりしており、彼女の常人離れした感覚を表している。

この作品、17世紀フランス宮廷と現代アメリカを行き来するデイン・ラファリーの舞台装置は特筆すべきだろう。昨年のトニー賞受賞作『メイビー・ハッピー・エンディング』や『ワンス・オン・ディス・アイランド』で活躍したラファリーは、アーデンとは『春のめざめ』『パレード』などでもタッグを組んで高い評価を受けている。彼の作り上げた豪奢な宮廷セットに、レディー・ガガやビヨンセも手がけるファッションデザイナーのクリスチャン・コーエンの衣裳が、鮮やかな色彩と大胆なシルエットを与えている。

建設途中の邸宅で行われるドキュメンタリー用撮影シーンでは、そのカメラマンの撮影映像が背景に生で投影されていく。近年よく見かける「舞台上で撮影した映像をそのまま背景に映す」スタイルである。かなり大きなスクリーンにジャッキーのクロースアップが投影されるが、演者のチェノウェスは57歳ともう若くはなく、「あれは厳しい」という日本人のコメントもある様だ。ただ、舞台から遠い席に座ったチェノウェスのファンは嬉しい部分だろう。

何しろ、この作品の目玉は、彼女の歌唱力とコメディセンスだろう。『ユー・アー・ア・グッドマン、チャーリー・ブラウン』でトニー賞を受賞し、『ウィキッド』でのグリンダ役で脚光を浴びた彼女のスター性は、本作でも揺るいでいない。150cmに満たない身体で、ほとんどすべてのシーンを一手に担い、伸びやかなソプラノと強靭なベルティングを自在に操っている。週2〜3回のホットヨガで呼吸法を鍛えているという本人の言葉どおり、長年の舞台経験を支える発声技術が光る。

旦那のデヴィッド・シーゲル役のF・マーレイ・エイブラハムは、老いや弱さを漂わせる演技に独特の味わいがある。しかし実際にジャッキーと出会った60代前半のシーゲル氏が筋肉質で精力的だったことを思うと、役柄の外見や雰囲気のギャップは否めない。

もう一人、出番は多くはないが、フランス王ルイ14世を演じたパブロ・デイヴィッド・ラウセリカの驚くべき美声が強く印象に残る。彼はまだ若く、ジャージー・ボーイズの米国ツアーでフランキー・ヴァリ役を務めた経験があるが、ブロードウェイ出演は今回が初めてである。ゆえに、今後の活躍を期待したい。

<総評>

『ヴェルサイユの女王』は、「建設中の巨大邸宅」そのもののようなミュージカルである。舞台美術と主演キャストの面では見どころが多く、視覚的な豪華さは十分に楽しめる。一方で、富・家族・アメリカン・ドリームの光と影という核心テーマをどこまで描き切るかについては、倫理的なメッセージが先走りしながら、まだ定まっていない印象がある。過剰にまでの無駄な贅沢を徹底的に描き、笑い飛ばすコメディに徹するのか、あるいは富の虚しさを描くのか。本作は両方を追いかけて、どちらにも振り切れない印象が残る。

チェノウェスのファンならまず満足できるはずだ。笑える場面も胸が熱くなる瞬間もあり、舞台の派手さも相まって、最後まで飽きずに楽しめる。ただし「名曲」や「歌と踊りの一体感」、あるいは「明確なテーマ性」を重視する観客には物足りない可能性もある。見せ場は確実に存在するが、語るべき物語としての深みは、もう一歩先にあると感じた。(11/12/2025)

<一口メモ>
ヴェルサイユは英語では「ver-SIGH(ヴェアサイに近い)」と発音される。この地名は中世フランス語の「verser(耕す・ひっくり返す)」に由来し、かつてその地域が農地・沼地を「耕して開墾した土地」だったことに由来する。

St. James Theatre
246 West 44th Street, New York, NY

公演期間:2025年10月16日〜2026年1月4日
公演時間:2時間40分(休憩1回含む)

舞台セット:9
作詞作曲:8
振り付け:6
衣装:8
照明:7
キャスティング:8
総合:8
@ Julieta Cervantes
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