The Seat of Our Pants(意訳)間一髪で生き残る

The Seat of Our Pants
(意訳)間一髪で生き残る

オフ・ブロードウェイ ミュージカル
The Seat of Our Pants
(意訳)間一髪で生き残る
The Seat of Our Pants(意訳)間一髪で生き残る

『The Seat of Our Pants*』は、イーサン・リプトンが、80年以上前に発表されていた『The Skin of Our Teeth(首の皮一枚で助かる)』を現代風に脚色し、ミュージカル化した新作である。演出は、イーサンと長年にわたり協働を重ねてきた演出家リー・シルバーマンが務めた。

5000年にわたる人類の存亡を描く風刺劇で、アントロバス家族が氷河期、大洪水、戦争という3つの終末的災害から、かろうじて生き延びるさまが、ユーモアと絶望で描かれている。作品はメタシアター的な要素を含んだコメディで、自己言及的な笑いを特徴としている。 開幕から約2週間時点で興行収入は150万ドル、平均稼働率85%を記録し、11月30日の千秋楽は人気を受けて12月7日まで延長された。

あらすじ&コメント

ピューリッツァー賞受賞戯曲であるソーントン・ワイルダーの『The Skin of Our Teeth(首の皮一枚で助かる)』は、第二次世界大戦下の絶望を反映した金字塔として評価され、1942年にブロードウェイのプリマス劇場で初演された。

その後、2017年のオフ・ブロードウェイ復活版ではセザール・アルバレスが歌を挿入したが、それは今回のような「ミュージカル化」ではなく、朗読、歌唱が混在する実験的構成であり、ワイルダーの戯曲の台詞の代替はされていなかった。

今回のリプトン版はパブリック・シアターの委嘱で2023年から開発されていた。ワイルダー版と同じく、死を「かろうじて免れる」状況を皮肉たっぷりに描き、原作のモチーフや骨格は参照されている。しかし、台詞、構成、時間軸が大胆に組み替えられており、もはやワイルダーの作品を材料にした別の戯曲、別作品となっている。

しかし似ているところもある。どちらもメタシアター的で、今回、途中でインカムをつけたステージハンドまで出てきたりもする。物語そのものよりも「いま起きている芝居のあり方」や「登場人物がその状況をどう受け止めているか」を笑いとして提示しており、「この状況、変じゃない?」と演者が気づいているのも笑いにつなげている。
『The Skin of Our Teeth』が発表された時代には、これらの試みは画期的であったが、そういう手法が良く使われる現代版『The Seat of Our Pants』では、それが更に強調されていた。

ちなみに、一見してどちらの作品も不条理劇のように思われがちだが、実際にはワイルダー版もリプトン版も、生き延びる行為そのものに微かな肯定の余地を残しており、生き延びた事実が意味を持つとは保証されない、という姿勢を取る不条理劇とは異なるだろう。

キャスト

メイドのサビナ役には『ファニー・ガール』でトニー賞助演女優賞にノミネートされたミカエラ・ダイアモンドが、そして母親役には『王様と私』でトニー賞助演女優賞を受賞したルーシー・アン・マイルズが出演し、その温かく力強い声が高評価を受けている。

親であり人類の象徴として描かれる父役は、『オクラホマ!』でトニー賞助演男優賞を受賞したシューラー・ヘンズリーが演じ、重厚な存在感と歌唱力で舞台を支えている。長男ヘンリー役には『ハデスタウン』でトニー賞主演男優賞にノミネートされたダモン・ダウンノが名を連ねる。
他にも恐竜やマンモス役のエンサンブルが加わり、総勢14名とオフ・ブロードウェイにしては大人数の作品となっている。

批評家レビューは賛否両論で、「ノックアウト級の傑作」と絶賛される一方、「穏やかすぎる」という批判もある。私はワイルダーのオリジナルの戯曲を2022年のリンカーン・センターのリバイバルで観劇し、その豪華な舞台装置を記憶している。今回のオフ・ブロードウェイ作品はそれに比べると質素ではあるものの、ミュージカルになったことで抽象的でわかりにくい部分も素直に心に入りやすかった。もう少し短くなるとさらに良いリズム感が生まれるだろう。

リプトンの歌詞には、「不況」「パンデミック」「山火事」といった現代的な出来事が織り込まれ、合唱によって強調される。最後のシーンでアンサンブルによって踊られる、サニー・ミン=スック・ヒットによる振付は、踊り手それぞれの個性を損なうことなく、あえてシンプルなステップを反復する構成となっている。その積み重ねが、「人は今も生き延びている」という静かな歌詞のメッセージを立ち上がらせ、観客に確かな手応えを残した。絶望のただ中にあっても、ユーモアと希望が光る、約2時間30分の壮大な寓話である。

あらすじ
第一幕:氷河期が迫るニュージャージー郊外で、アントロバス家の父ジョージ(シューラー・ヘンスリー)は発明を続け、母マギー(ルーシー・アン・マイルズ)と共に家族を寒さから守ろうとする。メイドのサビナ(ミカエラ・ダイアモンド)が加わり、恐竜やマンモスまでが登場するカオスの中で、彼らはかろうじて生き延びる。

第二幕:大洪水で流された結果、アトランティック・シティに着き、そこではサビナが美女コンテストに出場し優勝する。サビナは父ジョージを誘惑し、家族の絆が試される。
第三幕:戦争中および戦後の荒廃後、地下に閉じこもって生き延びた家族は、別れていた残りの家族と再会し、人類の再生を歌う。

*タイトル
『The Seat of Our Pants』は、ズボンの尻の部分を指す表現から来た慣用句で、馬や乗り物に座った際に、尻で微妙な揺れや傾きを感じ取りながら状況を判断し、計画や理屈に頼らず切り抜けることを意味する。計画なしの即興で事態を乗り越える、という感覚を示す言葉だ。
一方、『The Skin of Our Teeth』は、teeth(歯)には本来 skin(皮)が存在しないにもかかわらず、あえて「歯の皮」と表現することで、存在しないほど薄い余地を想像させる慣用句である。所謂「完全に終わっていてもおかしくなかったのに、かろうじて助かった」という感覚の言葉だ。そこで今回、『The Seat of Our Pants』を「間一髪で生き残る」、『The Skin of Our Teeth』を「首の皮一枚で助かる」と訳した。(11/29/2025)

The Newman Theater at The Public Theater
425 Lafayette Street, New York, NY

上演時間:2時間30分(休憩1回)
公演期間:2025年11月13日~12月7日(限定公演、延長済)

舞台セット:8
作詞作曲:7
振り付け:8
衣装:7
照明:7
キャスティング:7
総合:8
@ Joan Marcus
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