Water for Elephants直訳:象達のための水

Water for Elephants
直訳:象達のための水

ミュージカル ブロードウェイ
Water for Elephants
直訳:象達のための水
Water for Elephants直訳:象達のための水

ベストセラーとなった歴史長編小説「WATER FOR ELEPHANTS(邦題:サーカス象に水を)」の新作ミュージカルがブロードウェイで始まった。サラ・グルーエンによるこの小説は2006年に出版され、2011年には映画「恋人たちのパレード」にもなっている。時代は1931年、世界大恐慌の真っ最中。事故で両親を亡くして無一文となった青年ジェイコブが、行き先も定まらないまま列車に飛び乗り、そこで出会ったサーカスのメンバーと新たな人生を歩み始める。演出は昨年、『キンバリー・アキンボ』〔https://broadwaysquare.jp/kimberly-akimbo-2/〕でトニー/ミュージカル作品賞のトロフィーを手にしたジェシカ・ストーンだ。ちなみにこの作品の制作費は記録破の2500万ドルかかっていると言う。

ホームから抜け出した老人ジェイコブが、とあるサーカス小屋で、遠い昔を思い出しながら、とつとつと、話しを始める。若きジェイコブは、エール大学で獣医学科の勉強を終え、これから獣医師の資格を取ろうとしていた。その矢先、事故で両親が亡くなる。いきなり無一文となった彼のことをサーカスの団長オーガストは、丁度良いとばかり仲間に引き入れ、動物のケアを彼に託す。彼は短気で酷く暴力的な男で、動物や団員たちには無論のこと、妻のマレーナも容赦はしない。ある日、一番人気だった馬が死んでしまう。そこで彼は、代わりに象を仕入れて、そのトレーニングをジェイコブと、馬上アクロバットで人気を集めていたマレーナに命じる。二人はその象をローズと名づけ、次のサーカスのオープニングに間に合わせるため、必死にトレーニングする。やがてジェイコブとマレーナは惹かれ合うようになり、それを察したオーガストとの三角関係が鮮明になっていく。

主役のジェイコブを演じるグラント・ガスティンは、今回がブロードウェイのデビューとなる。彼は映画やドラマに引っ張りだこの美青年だが、ブロードウェイの大劇場を埋め尽くす観客のみんなが感じられるほどのオーラは今一歩といったところ。乞うご期待だろう。それに比べてサーカス団長オーガストを演じるベテラン俳優ポール・アレキサンダー・ノランの演技の巧みさと歌の上手さが目立っていた。

この作品では当初、重要な存在である象は姿を見せない。大きく見せた影と、声や足音などを使って像の感情まで描いていた。素敵な表現方法だった。ところが終盤になって黒子のような布を被った4人に操られて出てきた象は、痩せこけているうえ歪つな頭をしていて、それまでの虐待を物語っているようだった。アメリカ人にとって人形劇とは、エキゾチックだからなのか大好きなので、大いに盛り上がった。もっとも浄瑠璃など長い人形劇の歴史に裏打ちされた日本人の肥えた目では、感動を呼ぶことは少なかろうが・・・。

元となった小説を読んでいた或る劇評家によると、原作に出てくるサーカス団のダンサー、バーバラは同時にストリッパーや娼婦でもあり、ジェイコブまでも誘惑するらしい。しかしミュージカル内の彼女の役割はサイドショーの出演者からトップのパーフォーマーに登っていくサクセス・ストーリーになって、ジェイコブの姉の様な存在として描かれている。他にもそのような明るい設定への変更個所が複数あるらしく、だとすれば、当時の世界大恐慌が吹き荒れる中で、第二次世界大戦に突き進んで行く現実の世相を反映していない生ぬるさがあるかもしれない。

しかし、この作品をユニークにしている素晴らしいところもある。それは実際のサーカスのパーフォーマーが6人揃っていることだ。全体を通して彼らの技が見れる。かつてサーカスを舞台にして、トニー/リバイバル・ミュージカル賞を受賞した『ピピン』を思い出した人も多かった筈だ。ミュージカル界の歌も演技もするダンサーの方々とアクロバット専門の彼らを比べることは無論不公平なのだが、踊る時のそのスピードと柔軟さには、唸ってしまう。(3/27/2024)

Imperial Theater
249 W 45th St., NY, NY(Bet 7th &8th)
上演時間:2時間30分(休憩一回)
公演期間:3月21日〜

舞台セット:7
作詞作曲:7
振り付け:7
衣装:7
照明:7
キャスティング:9
総合:7
©Matthew Murphy
©Matthew Murphy
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