戯曲『人形の家』で有名なノルウェーの作家ヘンリック・イプセンの同名作品をエイミー・ヘルツォークが脚色したリバイバルとなる。原作は1883年にノルウェーで初演されて以来、世界中で何度も上演され、ブロードウェイでは11回目だ。今回は、テレビドラマの大ヒットシリーズ『メディア王 〜華麗なる一族〜』の主役を4シーズン務めて世界的名声を博したジェレミー・ストロングが主演している。ノルウェーの辺境にある小さな町の医師が、倫理感の為に心ならずもそこの町民と戦うことになる姿を描いている。演出は、エイミー・ヘルツォークの夫であり、トニー賞受賞者でもあるサム・ゴールドが担っている。 心の深淵に響く、見応えのある作品だ。
ピューリッツァー賞とトニー賞を受賞しているニューヨーク生まれの劇作家、ジョン・パトリック・シャンリーが脚本と演出を担った悲喜劇『ブルックリン・ランドリー』。異性運がなかった男女が、人生の大波に呑まれながらも様々な絆を大切にする様子を、丁寧に描いている。主演女優は『サタデー・ナイト・ライブ』で10年以上、いろいろな役をこなしてきたセシリー・ストロングで、今回は簡素で二面性のないフラン役を、好感の持てる演技で魅せてくれる。相手役のオーウェンは、ピューリッツァー賞を受賞した『Cost of Living』(https://broadwaysquare.jp/appropriate/)で主演したデヴィッド・ザヤス。彼はこの作品でトニー賞にノミネートされている。粗野でありながら温かみが感じられる男優で、人との触れ合いを渇望しながらも楽観的でいられる、寂しい中年男を演じると天下逸品だ。
ピューリッツァー賞とトニー賞を受賞した『ダウト』が、20年ぶりにブロードウェイに帰って来た。『ダウト』は劇作家ジョン・パトリック・シャンリーの名作。2008年にメリル・ストリープ主演で映画化され、アカデミー賞最優秀脚色賞を含めた5部門でノミネートされている。1964年、ニューヨーク市ブロンクスの労働者階級が多い地域のカトリック校が舞台。そこの修道女である校長と、併設する教会の神父が描かれる。厳格な校長は、信者や生徒にフレンドリーな神父を児童性愛者ではないかと疑い、何とかしなければならないと決意する。
主演女優ケリー・オハラは、ミュージカル『王様と私』でトニー賞を受賞。2019年には来日も果している。その彼女が今回はアル中の女を演じるというので、今NYCでは、この話題で盛り上がっている。演題の「Days of Wine and Roses」は、ジャズのスタンダードナンバーとして有名だが、元は1958年、 J.P.ミラーの脚本によるテレビドラマで、その後1962年にジャック・レモンが主演して映画化。大ヒットした。今回のミュージカルは、このテレビドラマと映画を組み合わせてミュージカルに仕立てられている。
コンラッド編集長は1995年、ライターとしてこの会社に加わって以来、約30年に渡って著名な人気雑誌ザ・コネクターの発刊に情熱を注いできた。ところが50年という歴史を持つコネクター社は、ちかごろ複合企業に買収され、利益増進を厳しく求められるようになっていた。そんな時に面接に来た名門校出身のイーサンを、編集長のコンラッドは大いに気に入り採用する。 働き始めたイーサンは、早速興味深い人物を見つけ出してきては次々に興味深い記事を書くのだった。そのおかげでザ・コネクターの購読者は増え、会社も順調に利益を上げていく。採用決定したコンラッドの眼力が証明されたように映る中、コンラッドはイーサンに政治的な記事にもチャレンジするよう勧め、イーサンもそれに応えるのだった。だがその記事の見事さに疑問を抱くメンバーもいた。それは同僚であり彼のガールフレンドでもあるロビンと、記事の裏取りを仕事としていたメリエルだっ...[Read More]
ニューヨーク、ブルックリンの劇作家レイチェル・ボンズによる新作。犯罪の温床の様な都市デトロイト生まれの主人公アナを中心に、3人の男達が絡んで話が展開する。舞台設定はただ一つ。彼女の部屋だが、それは一時期に留まらない。幼少期から学生時代を経て、ひとり立ちするまでの複数の彼女の世界が、ベッドと机のある部屋で描かれる。しかも回想して過去に行ったり現代に戻ったり、が繰り返される。最初は学校で出会ったヨナと仲良しになる部屋だ。次はもっと若い頃の自宅で、虐待する父親から自分を守ってくれる義理の兄と過ごす部屋となる。三つめは執筆家となった彼女が小説を書く為の仮宿で、そこに隣人の男性が訪れてくる。時間が過去と現在を行ったり来たりする中、観客は次第にこれが彼女の心の中にある部屋であり、現実にあった過去の話だったり、今の事だったり、時には彼女の想像だということが判ってくる。同時にどこまでが現実でどこからが空想...[Read More]
脚本家のブランデン・ジェイコブス-ジェンキンス(39歳)は、ブルックリンの黒人の劇作家/プロデューサーで、ピューリッツァー賞演劇部門を受賞している。また2014年にオフで上演されたこの『Appropriate 』と、別の作品 『An Octoroon 』で、オビー賞(オフやオフオフ・ブロードウェイを対象とする賞で、それらでの最高の栄誉とされている。)の最優秀新人アメリカ演劇賞も受賞している。『アプロプリエイト』はミステリーに満ちながらも、コミカルな会話によって、その緊張をほぐしながら進む。しかし軽妙な会話は一筋たりとも希望の光を見せてはくれず、笑いの中で徐々に8人の家族の関係と故父親の秘密が暴かれていく様子は絶妙で、150分はあっという間だ。
1996年、アメリカのギタリストがキューバの老巧なミュージシャン19名たちを再結集させて、古き良き時代のキューバ楽曲を録音した。そのアルバムは大ヒットして関係者達を驚かせただけでなく、翌年には更にグラミー賞に輝いた。それまでは無名だったキューバ音楽界のベテランたちの才能を世界に知らしめたそのアルバムの名は、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』。3年後には、ドイツの有名なプロデューサー、ヴィム・ヴェンダース監督によってそのレコーディングの秘話と共に、ミュージシャンらのインタビューやその後の活躍に迫ったドキュメンタリー映画も制作された。これらの2作品は、キューバの伝統的なサルサやソン音楽に新たな息吹をもたらし、それらの楽曲を不朽のものとした。その二つを基に制作されたのが、この新感覚のジュークボックス・ミュージカルだ。
今シーズンになって、制作費が2千万ドル超の2作品のミュージカル『ワンス・アポン・ア・ワン・モア・タイム』と『ヒア・ライズ・ラブ』が、相次いで開き、そして短命に終わった。そんな劇場街において、先日オフ・ブロードウェイで大絶賛の中で上演を終えたのが、ミュージカル『ヘルズ・キッチン』だ。グラミー賞に15回受賞、アルバムのセールスは6500万枚に及ぶ世界的歌姫アリシア・キーズによる作詞作曲のジュークボックス・ミュージカルで、開演前から大きな注目を浴びていた。
2023年12月10日にブロードウェイで開幕したミュージカル『ハウ・トゥ・ダンス・イン・オハイオ』は、これまでにない自閉症という題材と向き合い、多くのブロードウェイで初めての取り組みを行ったという点で、注目を集めた。原作は、2015年に公開された同名のドキュメンタリー映画『ハウ・トゥ・ダンス・イン・オハイオ』だ。オハイオ州のコロンバス市にある私設の精神カウンセリングセンターを舞台にし、そこに通う自閉スペクトラム症の人々に焦点を当てている。
ガーナ系アメリカ人劇作家ジョセリン・ビオのコメディータッチの新作で、以前このブログにも書いたオフの戯曲『Our Dear Dead Drug Lord』を担当したホイットニー・ホワイトが演出している。劇場に入ると、あらゆるアフリカのブレイディング(三つ編み)のスタイルが舞台幕に描かれているのが目に飛び込んでくる。これは髪を根本から細かい三つ編みにしていく黒人特有のスタイルで、隣に座る黒人女性二人も、早速「あのスタイル、やったことある!」とか「このスタイルはいいよね~」と話し込んでいた。
1985年の大ヒット映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の舞台化だけあって、オープンした最初の7日間に12万ドルを越える収益を上げた。また、初日一週間前に先だって行われた特別公演では、映画、舞台の両方で脚本や監督など大役を担っていたボブ・ゲイル、ロバート・ゼメキスといった大物が、舞台俳優たちと供にカーテン・コールに参加。その上、映画で科学者を演じたクリストファー・ロイドやマーティーの母親役のリア・トンプソンが登場したばかりか、観客席にはマイケル ・J・フォックスが来ていて、立ち上がってその姿を見せてくれた。当然、おおいに観客が沸いたオープニングとなった(映像添付)。